起業のきっかけは「工賃が6000円程度だった」障害者福祉への強い違和感 鹿児島発の新しい福祉のかたちは「才能を活かす仕事づくり」
アートから農業まで広がる可能性の場所
――「ひふみよベース」と呼ばれる4つの事業所それぞれの特徴を教えてください。 最初に開所した紫原(むらさきばる)の事業所「ひふみよベース紫原」(鹿児島市)には知的障害のあるメンバー(利用者)が多く就労しており、アート活動を中心に展開しています。彼らの作品を企業の広告やカタログ、商品パッケージに採用してもらったり、作った雑貨をデパートで販売したりしています。 7年ほど前には東京のラフォーレ原宿でも展示販売をおこないました。日々のタスクをこなすのではなく、テーマを共有しながら創作活動をおこない、それを私たちがディレクションしてプロダクトに変えて、クライアント企業のクリエイティブに採用してもらうことを意識しています。 荒田の事業所「ひふみよベース荒田」(鹿児島市)は精神障害のメンバーが多く、食に関する様々なワーク活動をおこなっています。スパイスカレー店「ちゃぶや咖喱堂」を運営しており、店舗にある「6labs(シックスラボ)」というセントラルキッチンで調味料からすべて手作りしています。 ベースのスパイスカレーはヴィーガン仕様で、化学調味料や添加物を使っていません。そこに野菜だけを載せればヴィーガンやベジタリアンの方に、ハラールの肉を使えばムスリムの方に、鹿児島黒毛和牛を載せれば日本人好みの味になるというような、多様な食のニーズに応えられる仕組みも作っています。 天文館の事業所「ひふみよベース天文館」(鹿児島市)は難病などで外出が難しいメンバーが多く、特にテレワーク型の支援に力を入れています。 鹿児島は南北660キロにも及び、離島も多い県です。そのような中で当事者の就労の選択肢を増やす目的から、2015年から先駆的に提供してきた「在宅における就労継続支援」を、この天文館の事業所で強みとして押し出しています。現在では福岡在住のメンバーもいます。 鹿児島市から少し離れた大隅半島にある鹿児島県大崎町には、子会社の「ひふみよベースファーム」が運営している「ひふみよベースファーム大崎」があり、農業と福祉の連携を進めています。 有機栽培による桑茶の生産や青パパイアの栽培のほか、作物の南限を超えるチャレンジとしてホップの栽培もおこなっています。高齢化で担い手不足に悩む地域の農家をサポートするなど、地域住民との活動を通じて、街を持続可能にすべく様々なアクションを起こしています。過疎地域の課題解決は、障害のある方々にとって大きなチャンスになると考えています。 最近では、AIブートキャンプという実践型カリキュラムも始めました。従来のような単なるパソコンスキルではなく、実際の業務で使えるAIの活用法を学んでもらっています。学んだ内容を生産活動の中で実践することができるのが、大きな特徴かもしれません。