オープンかクローズか、過剰な「秘密主義」がモノづくりにもたらした限界とは?
B教授:「私が機密保持誓約書にサインをして、知見を話すことにどんなメリットがありますか?」 A社技術者:「え?」 A社はB教授のメリットを、全く考えていなかったのです。 最初から住宅メーカーや建材メーカーに話さず、大学教授にアプローチしたところまでは正解です。詳しくは後述しますが、いきなり住宅メーカーや建材メーカーにアプローチすると、アイデアが漏えいするリスクがあるからです。アイデアの漏えいリスクは大学教授も同様ですが、メーカーとの違いは組織的な開発力の有無です。 A社は自社の技術とアイデアを守ることのみを考え、B教授のメリットを全く考えていませんでした。こうした場合は、B教授との共同研究にする余地はないかなど、B教授側のメリットを先回りして考えておくべきだったのです。A社はその後、B教授のところを二度と訪問できなかったようです。 ■ 過剰な「秘密主義」になっていないか 相手のメリットを考える余裕がなくなる背景には、自社の機密保持を最優先に考えてしまうことがあります。機密保持は重要であり、それを否定するつもりはありません。しかし、過剰な「秘密主義」は禁物です。自前で開発すればクローズドイノベーションとして機密性を確保できますが、それが限界にきているのが現代のモノづくりです。 このように話すと、オープンかクローズの二択しかないように感じられるかもしれませんが、そうではありません。 オープンイノベーションを推進するうえでは、必ずクローズ(守り)の領域があります。このクローズの領域を明確にすることが重要です。明確でないと、現場の技術者は安全性を真っ先に考え、「フルクローズ」に向かってしまいます。フルクローズではオープンイノベーションになりません。オープンイノベーションは、お互いにオープンの領域があり、そこでつながるイノベーションのことなのです。 大事なのは、絶対に譲れない守り(クローズ)の部分を明らかにし、しっかりとした知的財産戦略を持つことです。オープンイノベーションとは、お互いが有する知的財産戦略のすり合わせです。知的財産戦略がなければ、当然ですが先へは進めません。
古庄 宏臣/川崎 真一