今秋も値上げに追われる食品業界 品目数多く「値上げ渋滞」も発生
食品業界が今秋も値上げ対応に追われている。業績改善などを背景に値上げメーカー数は昨年の半分に減少した見通しだが、それでも10月以降の価格改定数は3300品超と規模が大きい。10月の値上げの主体となった飲料カテゴリーでは小売業の価格改定作業が追い付かず、メーカーが値上げを順番待ちする「値上げ渋滞」も発生。円滑に収益改善を図れない状況が続く中、値上げに伴う販売数量の減少も無視できない課題に浮上してきた。
価格改定作業の合理化、販売数量の回復課題に
25日現在、日本食糧新聞社調べによる10月~25年4月までの食品値上げ数は3321品を数え、飲料や菓子、酒類、ハム・ソーセージなどが中心を占める。主な値上げ要因は昨年来の原料・資材高、為替影響などの継続だが、ここへきて明確に増えたのが人手不足に伴う物流費や人件費の上昇だ。 業種別では桃屋が34年ぶりに瓶詰で「酒盗」「かつを塩辛」を値上げしたほか、カカオ豆の相場高騰が収まらないチョコレート類、コメ不足の影響による米菓や包装米飯の価格改定などが特徴的な動きに挙げられる。 食品値上げが本格化した21年から3年が過ぎ、メーカー・卸・小売業間の価格交渉は大幅に軟化した様子だ。小売業が一方的に値上げを拒み、交渉決着までに半年以上を要するような当初の状況は払拭され、足元の価格転嫁率が99%超に達した卸もある。 安さを売りにするドラッグストアやディスカウントストアなど依然値上げ交渉が厳しい業態も一部あるが、「物価上昇の常態化や消費者の値上げ慣れを考慮し、ほとんどの小売業が期日通りに価格改定を受け入れるようになった」(卸A社)とする声が多い。 その一方で、特定時期に集中発生する価格改定作業への対応負荷が業界課題に浮上。この10月も飲料メーカー各社が1000品超の値上げを一斉に実施し、卸や小売業はマスターの価格変更や値札の書き替え・付け替えなどの煩雑な業務に忙殺された。「飲料は10月中旬までに20%の作業がようやく済んだ程度」(卸B社)との話も聞かれ、店頭での値上げ価格の反映には時間がかかりそうだ。 価格改定日以降の値差はメーカー負担になることも多いようだが、ブランド力の強いメーカーなどがこれを許容せず、卸の持ち出しとなるケースもある。業界の適切な収益改善にはタイムリーな値上げの実現が不可欠といえ、メーカーの値上げ時期分散や小売業のデジタルプライスカードの導入拡大ほか、3層(メーカー・卸・小売業)の価格改定作業を共通化できるプラットフォーム構築などを望む声も強まっている。 値上げに伴う販売数量の落ち込みにも懸念が広がってきた。市場の中心を占める加工食品の動きをRDS-POSの全国スーパー実績で見ると、21年以降は売価アップと並行して数量減が顕在化。足元の平均価格は21年比16.9%増の268.7円へ上昇し、数量伸長率は減少幅こそ縮まったものの、0.9%減と水面下での推移となっている。 特に今秋の値上げは食用油やハム・ソー、菓子など過去複数回の価格引き上げを行ったカテゴリーも多いことから、「消費者の購入想定価格との乖離が広がり、節約マインドが一気に高まる恐れがある」(卸C社)と先行きを危惧。値上げ効果で数量減をカバーする現在の売上げ・利益構造が崩れれば、小売業からメーカー・卸への価格下げ圧力が強まる可能性も否定できない。量の回復も視野に、需要喚起へ向けた各層の打ち手が重要な局面だ。
日本食糧新聞社