中学受験で起きやすい教育虐待 子どもの将来の成功は“親にかかっている”というプレッシャー
それでも女性は、長女の偏差値が気になって仕方がない。「成績が下がった時、自分の感情がどう動くかわからない。また爆発してしまうのでは」 不安はつきないままだ。 ■中学受験で教育虐待 教育虐待とは、「子どもの心身の限界を超え、親が教育を強制すること」を指す。広義には必要な教育機会を全く与えないことも指し、勉強だけでなく、スポーツや音楽なども含む。 親によるこうした行為が生じる契機になりやすいのが、中学受験だ。中高生と比べて保護者の影響が強い小学生の時期に大量の学習が必要になるうえ、成績が可視化されることで保護者の感情が刺激されやすいことなどから、教育虐待が生じがちであると指摘される。 中学受験を経験した人の中に、家庭内で身体的・心理的な暴力を受けた経験があると自覚する人が、一定の割合で存在するとした調査がある。日本女子大の大学院に通う浅見里咲さん(34)が、同大4年生だった2023年8月、卒業論文の一環で民間リサーチ会社に委託し、インターネット上でアンケートを実施。東京都内に住む18~39歳の男女543人から回答を得た。 ■暴力や人格否定の発言 このうち、中学受験を経験していた133人に「成績の推移や勉強の取り組みに関連して、暴力を振るわれたことがあるか」を尋ねたところ、13.6%が父親から、12.8%が母親から、暴力を受けた経験があると答えた。「人格や人生を否定されるような発言を受けたことがある」は、父親からが10.5%、母親からが14.3%だった。 浅見さんは「『中学受験は厳しいものだ』という認識自体を変える必要がある」と話す。自身も中学受験のため小4の頃から大手学習塾に通い詰め、「教育虐待だったのでは」と思うような場面も経験した。 「社会で自己責任論が高まる中、子どもの将来の成功は親にかかっているというプレッシャーが強まっていると感じる」と浅見さん。「親が躍起になり、子どもが苦しむ背景に、社会全体の課題があるのではないか」 (朝日新聞記者・高浜行人、福井万穂) ※AERA 2024年12月30日-2025年1月6日合併号より抜粋
高浜行人,福井万穂