「暗渠のサイン」を知ってるかい? 連なるマンホール、明らかに広い歩道…ワクワクが止まらない3冊を紹介(レビュー)
元々は水が流れていた場所、暗渠。蓋がかけられるなどして見えなくされているけれど、実はあちこちに存在するかつての川や水路、暗渠の歴史と魅力をひもといた『暗渠マニアック! 増補版』は、何かを深く好きになることの愉悦を伝える、フィールドワークの結晶だ。著者の吉村生と高山英男は、別の仕事を持ちながら暗渠についてのトークや執筆を行っているユニットで、評者は以前、地元で開催されたイベントに足を運んだことがあるのだが、好奇心が生み出す知識欲と熱量に圧倒された。本書は二人の文章を交互に置くことでそれぞれのスタイルの違いを浮かび上がらせ、好きなものに対する近づき方と表現方法のバリエーションを示している。 湿気の多い道に存在する苔、鰻の寝床のような公園、車止め、連なるマンホール、車道に比して明らかに広い歩道。序章に書かれた高山氏による「暗渠サイン」にまずワクワクしてしまう。東京とその近郊、北海道、沖縄、そして台北まで二人の探索心は尽きることがない。吉村氏による愛知県豊橋市の「水上のビル」の項には、こんなところがあるのか! と小さく叫んでしまった。地図や写真などの豊富な資料も読者の胸をときめかせる。
暗渠は土地の痕跡そのものだが、人の「行為の跡」を見せてくれるのが古沢和宏『痕跡本の世界 古本に残された不思議な何か』(ちくま文庫)。意味不明の書き込み、呪詛のような感想、挟み込まれた写真と病名のメモ……かつての持ち主たちの動機と心理を、著者が大いに想像(妄想)する。知らない人の生々しい内面を見るようで少し怖くもあるが、それはまさに〈本の中はその人のみの空間〉だからだろう。
地質の歴史を包含するかけら、石を拾う旅を綴った宮田珠己の『いい感じの石ころを拾いに』(中公文庫)は、有意義なことをしない意義(のようなもの)が伝わってくる一冊。石に意味や価値を持たせず、ただ「いい感じかどうか」を基準に拾う。その基準が最後まで著者自身にもよくわからないというのが滅法面白い。 [レビュアー]北村浩子(フリーアナウンサー・ライター) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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