8歳の息子は目の前で死んだ 猪苗代湖ボート事故4年、癒えない遺族の悲しみと「水上法律の壁」
痛ましい事故の背景に「水上法律の壁」の存在か
悲惨な事故を生み出した背景には「水上法律の壁」が存在しているという意見がある。交通事故などの裁判を多く担当してきたベリーベスト法律事務所の齊田貴士弁護士は、安全対策を進める上で基準となる法律が甘いと指摘する。 「モーターボートの価格が何百万円とする中で、何十万の罰金をどうと思わない人も多いのではないか。現状の法律では抑止力は薄く、悲惨な事故は防げない」。 車による死傷者が出る重大な交通事故の場合、「危険運転致死傷罪」が問われる可能性があり、最大20年以下の懲役が科せられる。しかし、船舶の危険操縦を取り締まる刑事罰はほとんど存在しない。過失が認められる重大な事故が発生した場合でも、今回のボート事故と同じ、業務上過失致死傷の罪に問われ、5年以下の懲役・禁錮、または100万円以下の罰金が上限となっているという。自治体によっては独自の条例を設けることもあるが、現行法律の罰則以上のものはない。 「車であろうと、船舶であろうと、起こした重大な結果、失われた命に違いはない。しかし、水上の刑事罰が創設されない背景には国民による世論が影響しているのではないか…」。 「危険運転致死傷罪」が制定されたのは2001年、きっかけとなったのが1999年に東名高速道で飲酒運転のトラックが普通乗用車に衝突し、女の子2人が亡くなった事故だった。トラックの運転手は業務上過失致死傷罪などに問われ、懲役4年の判決を受けたが、結果の重大さに対する刑罰が軽すぎると、反発する世論の声が高まり、その後、法律が新設された。一方、水上の場合、船舶の利用範囲や期間、利用する人が限定され、毎日起こる車の事故のように「自分事」として捉えることは難しく、法改正につなげられるほど、世論の声は高まっていない。それでも齊田弁護士は「刑の不平等・不均等が生じている以上、改正が望まれる」と訴える。 海上保安庁の調べによれば、過去3年間(2021年~2023年)に起きた船舶の事故隻数は5,623隻で、このうち猪苗代湖の事故と同じプレジャーボートの事故隻数は半数以上を占める2845隻、死亡・行方不明者は47人に上っている。