吉行和子「89歳になって、20代の監督から役を頂けるのは、本当に幸せ。料理が苦手なのにスルメ作りも体験できた」
◆年を取ってからの長さ 泉さんは幸せです。若者に囲まれ、エネルギーをもらい、一緒に笑い、一緒に悩む。 「皆、なんか焦ってない?」と言い、「若いから焦るのも分かるけど、若いのなんか人生の一瞬よ。年取ってからの方が長いのよ。だからね、休憩が大事。考えながら、止まってもいいのよ。」などと言います。 確かに年を取ってからの長さを、私は実感しています。その日々をどう過ごすか、です。辛い話はいっぱい耳に入ってきます。ニュースでもたくさんありますが、知り合いの人たちからも知らされることが日々多くなってきています。クラス1の人気者で、いつも元気だった人が認知症になってしまったとか、悲しいことばかり。人ごととは思えません。 母のあぐりは、百歳で骨折してから歩けなくなり、7年間、家で寝たきりで過ごしました。頭はしっかりしていて、「もうそろそろ死んでほしいと思ってる?」などと私をからかいました。「私がいなくなったら、アナタは一人よ。それが心配で死ねないのよ。」とも言っていました。でも107歳で長寿を全うしました。母の好きな言葉は「身老未心老」というのです。何よ、むつかしいわね、というと、身は老いても心は老いず、という意味だそうです。確かに、心は老いなかったですね。面白い人でした。
◆夢を持って過ごして欲しい 働きづめでしたが、仕事をしているのが一番楽しい、と言い、まだパーマネントというものが日本に入ってきていない時代から、美容師として働き、3人の子どもを育てました。 働いている母の背中を見て育ったのですが、好きな仕事をしているということは、こんなに元気でいられるのだな、と思ったものです。 私も仕事が好きです。誰かに扮して現場にいるときが、一番楽しく、元気でいられます。 18歳で劇団の研究生になってから、一度も嫌になったことはありません。 こんな歳になってしまったのに、まだ役を頂けるのは、本当に幸せだと思っています。『ココでのはなし』の泉さんの役などは、素敵なプレゼントでした。 初めてお会いした、こささ りょうま監督は20代(撮影時)。「うわー、こんな若い監督さんが映画のオファーをくださるなんて、なんて私は恵まれているんだろう」と感激しました。 「ココ」に集ってきた若者は幸せですが、今はわるい大人の餌食になっている若者たちの話もたくさんあります。何とかして、夢を持って過ごして欲しいと思うのですが、あまりにも世の中は希望を持たせてくれることが少なすぎます。負けないで欲しい、と思うしかありません。
吉行和子
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