吉行和子「89歳になって、20代の監督から役を頂けるのは、本当に幸せ。料理が苦手なのにスルメ作りも体験できた」
日本映画界を牽引してきた吉行和子さん。母は美容の草分けとして朝ドラ『あぐり』(1997年)のモデルになった吉行あぐりさん、兄は作家の吉行淳之介さんだ。9年前に、107歳になる母を見送って一人になった吉行さんが出演する『ココでのはなし』は、ゲストハウスに集う人々の交流と愛おしい日々を描いたヒューマンドラマ。ワルシャワ国際映画祭を皮切りに、すでに10以上の映画祭で上映され、評価を得ている。吉行さんは今回、若者たちの心の拠り所となる泉さんを、小柄な身体で纏う風格とチャーミングさで演じている。映画の公開に合わせ、撮影現場の日々などを吉行さん自身に綴ってもらった。(写真提供◎吉行さん) 【写真】民藝の前で、着物姿の初々しい吉行さん * * * * * * * ◆「ココ」というゲストハウス 「ココ」というゲストハウスに集ってきた人達の話です。オーナーは40代。彼のお母さんの友達だったということで、私も入れてもらっています。私以外はみんな若者。 それぞれ悩みはありますが、ともかく「ココ」にやって来て、心を通わせ、少しずつ元気を取り戻していっています。 おにぎりや味噌汁、野菜の煮物、手作りの御馳走がいかにも美味しそう。 こういう場所があったらいいですね。 映画はフィクションですが、観てくださった方が、「ココ」があればいい、「ココ」を作ろう、と思ってくだされば、どんなに嬉しいでしょう。 私もこの映画のおかげで、新しい体験をいくつかしました。だから、とっても楽しい撮影でした。年をとってもこんな生活が出来るのは貴重です。
◆実は大の料理ベタ 泉さん(私の役名)は、好奇心いっぱい。スマホでライブ配信をすることにハマっています。いちご酒をはじめ、レモン、オレンジ、キウイ、リンゴ、パイン、ブルーベリー、などなど、色んな種類のお酒を作って、若者たちにすすめています。 イカをさばいてスルメを作るというのも配信します。生のイカをハサミで切って、「ほら、簡単でしょう」とカメラ目線でにっこり。実は私は大の料理ベタ。生のイカなんて、お刺身以外さわったこともありません。 「どうするの?」と周りの人たちの助けを借りて何とかやりましたが、顔で笑って、心はビクビクでした。 自慢にはなりませんが、目玉焼きだってまともに作れないんですよ。仕方なく、卵かけご飯で間に合わせているのです。 この料理嫌いは、コロナ以降、バチが当たってとても大変。以前はよく、一人暮らしの友人たちと外で食事をしていましたが、なかなかもとには戻りません。仕方なく、何とか自分でやっていますが、毎回、苦心しています。あー、「ココ」があればいいのに、とその都度思い出しています。
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