ふるさと納税はネット通販か ”勝ち組”との差1万倍近く 「赤字」でも獲得競争に距離を置いた”異色”の前村長 歪んだ制度に投げかける問い
「キャンプ場の体験券なら返礼品にしてもいい」
澄んだ冷たい水で知られる長野県木曽郡大桑村の阿寺渓谷。夏場は県外ナンバーの車が多く訪れ、若者グループらが水遊びを楽しみ、渓谷上部のキャンプ場は週末を中心に予約で埋まる。 【写真】ふるさと納税と距離を置いた異色の前村長 今月12日まで4期16年、村長を務めた貴舟豊さん(75)にとって、子どもの頃から親しんだ景勝地だ。貴舟さんは川の流れを見つめ、「村を知ってもらう観点なら、キャンプ場の体験券をふるさと納税の返礼品にしてもいいかもしれない」とつぶやいた。
ふるさと納税と距離を置いた異色の前村長
貴舟さんは在任中、政府の地方創生関連政策の一つであるふるさと納税の「獲得競争」とは距離を置いた。村の2023年度の寄付受け入れ額は、県内最少の4件計17万5千円。多くの自治体が獲得に奔走する中、異色の対応だ。
村民税が赤字でも
村民が村外の自治体に寄付する額の方が大きく、村民税(住民税)の流出が続いている。23年度の村外への寄付は177万円で、地方交付税の補填(ほてん)を加味しても約30万円の「赤字」だった。この間、村議会や住民から制度の利用を求められることもあったが、それでも慎重姿勢を貫いた。
返礼品は「ネット通販」?
貴舟さんは理由に、返礼品が「ネット通販」のように扱われる現状や、収入額を見通しづらく「安定財源になり得ない」ことを挙げる。「都市と地方の税収格差は寄付の獲得競争ではなく、地方交付税で対応すべきだ」。その思いは村長を退いた今も強い。
都市と地方の格差是正へー菅元首相の音頭で始まり15年
出身地や応援したい自治体に寄付し、都市部と地方の税収格差を是正する―。こんな理念を掲げたふるさと納税は08年、当時総務相だった菅義偉元首相の音頭で始まった。
寄付総額は23年度に1兆円超に
換金性が高い商品券や家電などが返礼品に並び、特典目当ての寄付が増加。「制度の趣旨から逸脱している」との声は多く、国は返礼割合を寄付額の3割以下に抑えるよう求めるなど、頻繁に制度を変更した。それでも納税額は右肩上がりで、08年度に81億円余だった寄付総額は23年度に1兆円を超えた。
恩恵を受ける長野県
長野県は全国的にみれば、ふるさと納税で恩恵を受ける側だ。県と77市町村が23年度に受け入れた寄付総額は263億6千万円。これに対し、県民が他自治体に寄付したことに伴う住民税控除額は67億8千万円だった。