ふるさと納税はネット通販か ”勝ち組”との差1万倍近く 「赤字」でも獲得競争に距離を置いた”異色”の前村長 歪んだ制度に投げかける問い
否定しきれない側面も
逆に、寄付の受け入れ額が住民税控除額を下回ったのは、東京都や大阪府など10都府県。奈良県や山口県でも住民税控除額の方が大きく、「税収が潤沢な都市圏の税金が地方に流れている」と言い切れない面もある。しかし、政府は6月に発表した「地方創生10年」の報告書でふるさと納税について、「各自治体が必要な財源を確保し、主体的に施策を推進する動きが広がった」と自賛した。
最多と最小の自治体の差は1万倍近く
23年度までの10年間、県内77市町村で最多の寄付を受けた伊那市。受け入れ総額は191億円で、最少の大桑村(210万円)との差は1万倍近い。市は集まった寄付を教育関係の施設整備などの施策に充てるが、白鳥孝市長は寄付の収入は「水物」とも話す。
「勝ち組」でも「頼らない」
テレビや掃除機などの家電製品を返礼品に並べた16年度には全国2位の72億円余を集めたが、総務省の要請を受けて家電を返礼品から除外した翌年度は4億4900万円と大きく減少。獲得競争の「勝ち組」であっても税収の安定性は低く、白鳥市長は「ふるさと納税に頼らない財政運営が基本だ」と指摘する。 県町村会の羽田健一郎会長(小県郡長和町長)は、自治体間に住民税の獲得競争を強いるふるさと納税制度では抜本的な地域振興にはつながらない―と指摘する。「地方に権限と財源を委ねなければ、本当の地方創生は実現しない」と訴えた。
財政学・地方財政論が専門の埼玉大の宮崎雅人教授(須坂市出身)に、ふるさと納税制度に対する評価や都市と地方の税収格差是正について聞いた。
専門家が見る、ふるさと納税の現実
財政学・地方財政論が専門の埼玉大の宮崎雅人教授(須坂市出身)に、ふるさと納税制度に対する評価や都市と地方の税収格差是正について聞いた。 ―ふるさと納税制度の現状をどう見ているか。 「制度導入前は納税者のふるさとに対する真摯(しんし)な思いを制度的に実現するとされたが、実際にはそうなっていない。返礼品で寄付先を選ぶケースが大半で、『ふるさと』や『応援したい自治体』というところは遠くなっている」