トランプ次期政権の「格差と分断」を加速する「破壊的人事」…マスクにケネディ家の異端児、元「WWE」トップまで
移民排除と関税とリバタリアニズム
肝心の問いは、ではポピュリズム政権が、それを生み出した所得格差やインフレによる生活不安を解決してくれるのか、ということだろう。 しかし、これまでに発表されている政策を見ると、どうも「逆じゃないの?」と思えてしかたない。 米国の不法移民の数は、1100万人(国家安全保障局推定)。特に農園業では就労者の4割を占める(米農務省)。公約通りに大量の不法移民を軍を動員して排除すれば、農業や建設業、サービスなど多くの分野で労働力が不足して生産コストが上昇し、インフレ圧力は強まるだろう。 また、これまで協定を結んできたカナダとメキシコにまで25%の関税を課すことが発表されたが、保護主義もインフレを加速させる。2018年の緊急輸入制限(セーフガード)導入では、20%の関税がかけられた大型洗濯機の値段が12%上がったという調査結果がある(シカゴ大など)。 政府の介入を抑え、経済を市場に委ねるリバタリアン(自由至上主義)政策も、貧富の格差を拡大させるだろう。金融資産の利回りの方が実経済の成長率より高いので、資産を持つ人と持たない人の格差は放っておくとどんどん拡大するーーそう説いたのは「21世紀の資本」の著者、トマ・ピケティ―だ。80年代のレーガノミクスやサッチャリズムで規制緩和や新自由主義経済政策が導入されて以降、世界で貧富の格差が拡大したことはよく指摘されている。 イーロン・マスク氏の政府効率化省起用で思い出すのは、一年前に登場したアルゼンチンの「チェーンソー」大統領、ハビエル・ミレイ氏(参考記事:日本も他人事ではない…通貨はドルに、中央銀行は廃止?“アルゼンチンのトランプ”ミレイ大統領誕生に見る「先進国脱落」のシナリオ)だ。 諸悪の根源は自由な経済活動に対する行政の介入だとするミレイ大統領は、選挙中に「アフエラ!(叩き出せ!)」と叫んで廃止を約束した「教育省」や「女性・ジェンダー多様化省」など9つの省を、公約通りに廃止(庁への格下げを含む)し、官庁の数を半減させた。報道によれば、最近マスク氏がミレイ氏の担当閣僚と話をしたという。公務員の大量解雇や公共事業削減をマスク氏が模倣する可能性がある。 実際、ミレイ大統領はこの荒療治で財政を均衡させ、インフレとペソ下落に歯止めをかけて、5割前後の支持率を維持している。ただ、その一方では、多くの公的支援が止まったことにより、貧困率が半年間で10ポイント上昇して5割を超えた(国家統計局)。現地メディアは、カトリック教会の炊き出しに最後の救済を求めて列を作る人が倍増したと報じる。