トランプ次期政権の「格差と分断」を加速する「破壊的人事」…マスクにケネディ家の異端児、元「WWE」トップまで
トランプ政権の「プロレス的破壊人事」
ポピュリズムとは、すなわち反エリート主義のこと。「エリート的でない」点では、トランプ氏の人選は期待通りというか、ポピュリズムで先行する途上国に似てきた。 例えば次期教育長官に抜擢されたのは、プロレス団体WWEの元CEO、リンダ・マクマホン氏。過去のプロレスの演出で、巨漢レスラーからパイルドライバーをかけられている動画が今バズっている。 リンダ氏の夫でWWEオーナーのビンス・マクマホン氏とトランプ氏の付き合いは長く、2007年には二人の「億万長者対決」なる試合が行われた。双方が自分が選んだレスラーに試合をやらせ、負けた方の富豪がリングで丸刈りになるという、おバカだが話題性では満点の興行だ。 トランプ氏が場外でマクマホン氏に馬乗りになってゲンコツを食らわせるおまけつき。負けて丸刈りにされたのは悪役のマクマホン氏の方だったが、プロレスだから筋書き通りだったのだろう。これを見ていると、トランプという人がいかに大衆の中心で喝采を浴びるのが好きなのかが分かる。ポピュリスト政治家トランプの原点がプロレスにあると指摘する人もいる。 プロレスと教育がどう結びつくのかははっきりしないが、トランプ氏は教育省など廃止にすべき、と公言しているから、破壊的人事を強調したかったのかもしれない。
「陰謀論者」のロバート・ケネディ・ジュニアも
デストロイヤー人事のもう一つは、「ケネディー家の異端児」、ロバート・ケネディ・ジュニア氏の厚生長官への起用。大統領選では当初無所属候補として出馬、その後トランプ氏の支持に回った経緯があるので、恩賞人事だ。 ケネディ氏は「小児用ワクチンで自閉症になる」とか、「新型コロナウィルスは白人と黒人を狙い撃ちしており、ユダヤ人と中国人は最も免疫が高い」など、多くの陰謀論や根拠の薄い自説を語ることで知られる。この発表を受けて製薬会社の株が軒並み下がった。 また130万人米軍を統括する国防長官にはFOXニュース司会者のピート・ヘグセス氏が指名された。陸軍州兵の経験はあるが、大部隊を指揮したり政府で要職を務めた経験はゼロ。胸や腕にキリスト教保守派や白人至上主義者が好むエルサレム十字架やラテン語のタトゥーを入れており、2021年の連邦議事堂占拠事件では、乱入者らを「左翼が祖国に何をしたかという現実に目覚めた愛国者」だとかばって、物議をかもした。 「WOKE(ウォーク、目覚めている)」という黒人文化に由来する言葉がある。もともと人種偏見や迫害に対して目を光らせて警戒するという口語表現だが、近年保守層の間で、マイノリティーに過度に肩入れするリベラルを中傷する言葉として、否定的に使われるようになった。日本語でいうと「意識高い系」という言葉を悪意を持って使う感じだろうか。 ヘグセス氏は、女性の戦闘参加などの多様性の推進が米軍を弱体化させた、と主張し、多様化推進派の制服組を米軍から排除して「ウォークと戦う」ことを宣言している。 *なお、12月5日16時時点、トランプ氏はへグセス氏に代わる候補を検討していることを、複数のメディアが報じている。 ヘグセス氏については過去に性的暴行容疑で捜査されていたことが暴露された他、トランプ氏が司法長官に抜擢しようとしたマット・ゲーツ下院議員も未成年者に対する性交渉疑惑などが発覚して辞退に追い込まれるなど、第二次トランプ政権は発足前からスキャンダルが多い。もっとも、有罪評決まで受けた人物が大統領に再選される事態の方が、前代未聞のスキャンダルかもしれないが。