「福島の地酒が、まさかアメリカで再起するとは」300年続く酒蔵、原発事故で捨てた…不屈の家族の13年 #知り続ける
受けた日本流の接客
2022年、ワシントン州から仮のアルコールライセンスが出てついに試験醸造。屋号を「SHIRAFUJI SAKE BREWERY COMPANY」とし、同年12月にオープンした。 数カ月はほとんど客が来なかったが、地元のTVで紹介されたのを機に増加。日本流のきめ細かい接客が受け、週末の営業日は予約で埋まるようになった。 客が楽しむのは「試飲バー」での飲み比べ。熟成のタイミングを変えた、味が異なる酒を提供する。目でも楽しんでもらおうと日本製の美しいグラスに注ぐ。販売用の酒瓶はワインボトルにした。ラベルも英語表記だ。 地元産を愛するシアトルの人々が喜んでくれた。「あなたたちがきてくれてうれしい」 好奇心が旺盛で、理解できるまで質問をぶつけてくる人も。未知の存在だった日本酒に興味がわくようだ。酒造りを見学する「酒蔵ツアー」を実施すると、好評を博した。 あるウイスキー愛好家はこんな風に言ってくれた。「60年後もシラフジの酒を飲みたいからつぶれないでくれ。本物の酒を造る限り、飲み続けるよ」
「地元シアトルに愛されてこその地酒」
ただ、かつての味を再現するのは簡単ではない。最初にできた酒は少し黄色味を帯びていた。蔵に残っていたワイン酵母が影響したとみられる。 酸味がついて失敗したと思ったが、「それがうまい」という現地の人もいた。 反対に、会心の出来映えを提供しても気に入ってもらえないこともあるから面白い。 酒米は、日本酒によく使われる「山田錦」。アーカンソー州で栽培されている。 米の出来や気象条件が毎回変わるため、洗米や浸水時間の細かい管理が欠かせない。水はミネラルを多く含んだ硬水だ。周平さんによると「馬力」があり、ほっておくとどんどん発酵が進む。 酒蔵の心臓部である麴室では守さんと真理さんが麴造りを担う。温度管理のため手入れが欠かせないが、セキュリティ面から夜は蔵に立ち入れず、心配は尽きない。 日本とは何もかも違い、戸惑いの連続。だが、周平さんは前向きだ。 「双葉には双葉の、ここにはここの最適な形がある。今はそれを探しています。地元に愛されてこその地酒ですから」 日本とアメリカでは味の表現も異なる。「淡麗」をどう説明しても伝わらない。 そこで地元のコーヒーチェーン「スターバックス」を見習い、酒の味を「メロン」「ダークチョコレート」「クミン」「カカオ」「ピスタチオ」などになぞらえると、ニュアンスが伝わったのか客の笑顔が増えた。