「福島の地酒が、まさかアメリカで再起するとは」300年続く酒蔵、原発事故で捨てた…不屈の家族の13年 #知り続ける
思い出した祖母の言葉
2023年に造った酒は完売。ただ、製造量はまだ双葉時代の100分の1だ。アメリカ国内の販売と、クラウドファンディングで支援してくれた日本の人々に送ると在庫がなくなる。 従業員を雇わず、家族だけではこれが精いっぱい。将来的には現地で杜氏の養成も考えるという。 最新の酒は製法を双葉時代に戻し、漢字で「白冨士」と名付けた。近くには書家もおり、ラベルを頼むと快諾してくれた。 開店1周年を迎えた2023年12月、定員約25人の店にのべ100人以上の常連客が集まった。お礼を伝えるはずが、プレゼントをたくさんもらった。人の輪が着実に広がっている。 真理さんは、かつて祖母から聞いた言葉が思い浮かんだという。 「町は、酒蔵を中心に発展していく」
今こそ、恩に報いる
日本では元日に能登半島を大地震が襲った。他人事と思えず、一部商品の売り上げの半額寄付を決めた。能登の酒蔵も多く被災。惨状は13年前の自分たちに重なる。 真理さんは福島の避難生活で出会った東大阪の町工場の人々を思い出した。現金を渡され、「これは次に造る酒の代金ね」と言われた。戸惑っていると、彼らはこう続けたという。 「次は真理さんが誰かにやってあげればいいから」 恩に報いる時が来た。今なら人を思いやり、行動に移せる。自分たちが「生きていると感じる」。 ここまで想像以上に時間がかかった。迷い、つまずきながら歩いてきた。 「やれることは全部やってきた。それだけは胸を張れる」。経験が家族を支えている。夢も不安もたくさんあるが、ようやくスタート地点。真理さんは新たな目標を口にした。 「これから300年、シアトルで歴史をつないでいけたら」 ※この記事は共同通信とLINE NEWSの特別企画をYahoo!ニュースに配信しています。
共同通信