12月で引退…腰に爆弾を抱えるヘスス・ナバスはなぜ最後まで走り続けるのか「セビージャでプレーする以上のことなんてない。最後まで全力を尽くすよ」
6日に行われたラ・リーガ第9節、セビージャ対ベティスのダービーはルケバキオのPK弾でセビージャの勝利に終わった。スペイン屈指の熱狂を誇るダービーだが、今回の伝統の一戦には明らかな主役がいた。スペイン、ひいては世界のフットボール界の生ける伝説であるヘスス・ナバスだ。 11月21日に39歳となるナバスは、今年の12月限りでの現役引退を表明している。そんな彼にとって今回のベティス戦は、自身が臨む通算29回目(ホアキンを上回りダービー出場数の記録更新)のダービーであり、キャリア最後のダービーだった。 ナバスがスパイクを脱ぐ理由……それは、体が限界を迎えたから。腰に抱える爆弾は爆発寸前で、一度試合に出れば2~3日間は歩けなくなるなど、すでに日常生活に支障をきたすほどだ。彼は愛する子供たちとフットボールに興じ、思い出をつくってあげられないことを恐れて、ついに決断を下した。 だが、それでもヘスス・ナバスは約束の12月まで、皆の知るヘスス・ナバスであり続ける。往年のキレのあるドリブルは影を潜めたかもしれないが、プレーに込める魂は世界の頂にも届き得た高潔なサイドアタッカーのものである。彼はセビージャのカンテラーノ(下部組織出身選手)として、クラブの象徴として、練習や試合に全力で取り組み続け、皆の心を揺さぶるのだ。 現にセビージャの選手たちは、今回のダービーをナバスのために戦い、彼に勝利を捧げることを誓っていた(ダービー当日の朝、そんなビデオメッセージをナバスに見せていたのだ)。そしてナバスも72分から出場を果たすと、1-0のリードを守るために時間を使い、全力で走って守ってと、チームのために尽くし続けた。たとえ試合後、また腰の痛みが彼を襲い、数日間歩けなくなるとしても……それでも彼は走り抜いたのだった。 1点リードを守り切ってダービーに勝利した後、ナバスはチームメートに肩車をされ、観客から大喝采を受けていた。その後マイクを向けられた際には、感慨深そうな顔でこう語っている。 「僕はフットボールを愛している。このスタジアムで、ファンを前にしてピッチを駆け抜けることを愛しているんだ。最後の日までファンを楽しませたい」 「もはや日々の練習でも心を動かされるようになっている。このクラブでプレーする以上のことなんてないんだ。セビジスタ(セビージャサポーター)のみんなも、どうかこの時を楽しんでくれたらうれしい」 「なぜ体の限界を超えているのにプレーするのか? そうやってセビージャに教えられたからだ。各練習、各試合で全力を出せってね。下から上がってくる選手たちには、どうか努力の意味を、セビージャというクラブの意味を知ってほしい」 「僕は最後の日まで、このクラブのために全力を尽くすつもりだ」 ナバスの気持ちは、皆の心に届いている。同じくセビージャのカンテラーノである、24歳イサーク・ロメロは言った。もう足が動かない、もう一歩届かないと思ったときには、「このクラブのエンブレムを、ヘスス・ナバスのことを思い出せばいい」と。 ナバスはもはや、セビジスモ(セビージャ主義)そのものだ。そんな彼のプレーと魂を瞳に焼き付けられるのは、今年までである。 文/江間慎一郎