ロッチ・コカド 銭湯に行ったまま今も戻らない父。その分、母と姉から目一杯甘やかされて…「中岡くんから言われるまで自分を可哀想な境遇と思ったこともなかった」
◆なんとかなるやろ 僕は勉強が嫌いでテレビでお笑いばっかり見ていたので、「じゃあ、お笑いやったら?」と母に言われてNSCに入りました。 お笑いの世界に入ってからも、売れない期間に焦ったりすることもありませんでした。 働き盛りの父親がいなくとも、家に大したことがおこらなかった、という経験からなのか、「なんとかなるやろ」と大抵の時は思えるんです。<幸せのハードル>もめいっぱい下がりました。(笑) 当然、自分自身を可哀想な境遇と思ったこともなかったのですが、当時のことを相方の中岡くんに話すと、「多分、相当貧乏で大変やったはずやで」と言われて。それで初めて自覚しました。 今では母に頼まれて、ミシンでつくったものをたくさん送るようになりました。「そんなにいる?」と思うくらいの注文が母からは舞い込んでくる。 「お世話になった人がいんねんけど、バッグ8個ほどお願いできる?」みたいな感じです。「8個?!そんなに欲しい人本当にいるの?」と毎回疑ってかかるのですが、それでも次々と注文してきます。
◆コントとミシン ミシンは作る行為も楽しいですが、作っている最中に「喜んでくれるかなぁ」と想像するのも楽しい。そしてミシン作品は手間のかかり方があまり相手に伝わらない、というのも僕としては気が楽です。 今は友達のところの赤ちゃんと、その家で飼っているフレンチブルドッグに、お揃いの恐竜の布でスタイ(よだれかけ)と洋服を作っています。恐竜が好きと言っていたなぁと思い出して、恐竜の布を選ぶところから、もう楽しかった。(笑) そしてだんだん形になってきた今も楽しいんです。 コントを生み出す際に、まず大筋をかためて、その後「てにをは」や入れるキーワードを練ったりして作り込んでいく時の喜びと、ミシン作品を仕上げていく時の喜びは似ています。完成に向けてブラッシュアップしていくワクワク感は同じものなのかもしれません。 お店に並んでいるものを、そっと裏返して作り方を探ったりもしますが、不思議と既製品と全く同じものを作ることはないです。 コントを作っている時でも、誰かと被っていないかというのをすごく気にしていて。少しでも似て見えたものは全部やめてきました。人真似だけはしたくない、というのが癖づいているのかも。 僕はかなりの洋服好きですが、「今年の流行色はコレ」と言われて飛びついたり、「デザイナーがイケてる」からそのブランドばかり着る、というのは避けてきました。結局、どこかの誰かの“オシャレ”に乗っかっているようで、しっくりこなかったのだと思います。 対して古着は機能性だったり、労働者のニーズに合わせて作られているので、その中から自分に似合うものや好きなものを組み合わせることができます。そんなところも僕の性に合っていたからこそ、一度は古着屋さんに勤めたくらいに好きでした。 なんでも自分オリジナルで選びたい、という気持ちが強いのかもしれません。なので、間違いなく世界で一点しかないモノが手に入るミシンは、やはり僕にうってつけの趣味だったのでしょう。