男女格差・家父長制・貧困…韓国文学に描かれた「いま」を知る 書店員オススメの5冊
ディア・マイ・シスター
私の人生を壊した痛みを忘れなくていい、変わらなくていい 「2008年7月14日、月曜日」高校生のジェヤは大雨の小さなコンテナの中で性暴力の被害を受ける。日記形式の本書で描かれるのはジェヤの約3760日の断片であるにもかかわらず、何度も訪れる「2008年7月14日、月曜日」の痛みから動くことが出来ない彼女の絶望に身を引き裂かれる。ジェヤを大切に扱ってくれる従兄弟のスンホや妹のジェニ、唯一頼れる大人であるおばさんの存在や時間も、あの被害者やあの時間に繋がっていることがまざまざと感じられる。忘れて生きていくことは、書かれなかった日々の逡巡や、「あの日」以前の人生の線が途切れるということでもあるということでもある。自分自身で生きるためときには大切なものも手放して、起こった出来事を何度もさまざまな言語で語り直そうとするジェヤの姿は、言葉を希望のために使うにはどうすべきか読者や社会に身をもって問いかける。彼女の未来が明るいことを願わずにはいられない。(本のあるところ ajiro・兒崎汐美)
普通の生活──2002年ソウルスタイルその後─李さん一家の3200点
窓のむこう ソウルで市内バスに乗り始めた頃、アナウンスが聞き取れず一つ先の停留所で下車してしまうことがよくあった。車道沿いに戻るのはもったいない気がして横道に入り住宅地を歩くと、しばしば捨て置かれた家具を目にした。椅子、ちゃぶ台、小ダンス、ドラマで見るような螺鈿装飾の鏡台まであった。人が暮らす家の中をのぞくことはできないけれど、粗大ゴミから少しだけ生活をかいま見たような気がした。この本は2000年代初期、ソウルの集合住宅のとある家庭の家財道具を考現学的に取材した本。日本の暮らしと似ていたり違っていたり、写真の隅々まで興味深い。現在、再開発によってソウルのあちこちで林立するアパート(タワマン)はどれも同じ顔をしているように見えるけれど、その窓のむこうにも多種多様な普通の生活がある。そんな当たり前のことを、20年前の本から感じとることができる。(ブックギャラリーポポタム ・大林えり子)