男女格差・家父長制・貧困…韓国文学に描かれた「いま」を知る 書店員オススメの5冊
作家ハン・ガンさんのノーベル文学賞受賞で再び注目を集めた韓国文学。家父長制や男女格差を巡る葛藤、少子高齢化や貧困など、国境を越えて普遍的な悩みを抱える人々の暮らしが描かれています。11月23・24日に東京・神保町で開かれる韓国文学のお祭り「K-BOOKフェスティバル」と、全国の書店で開かれる「K-BOOKフェア」を前に、参加する書店の店員たちが、そんなお隣の国を知る手がかりになりそうな5冊を紹介します。
29歳、今日から私が家長です
新しい世界をひらくイ・スラの提案と抵抗 「家父長制」という言葉に、普段から馴染みのある人は少ないかもしれない。しかし現代韓国文学の女性作家たちにとって、それは主要なテーマのひとつだ。 イ・スラ著『29歳、今日から私が家長です』の原題は『家女長の時代』。「家父長」でも「家母長」でもなく、家族の中で一番力を持たされてこなかった若い娘が一家の長として取り仕切る、新しい秩序の提案。そこでは従来無償で提供されてきた家族の世話と家事に対価(賃金)が与えられるだけでなく、そのもともとあったゆるぎない価値と美しさが生き生きとユーモラスに描かれる。そして娘と母と父は、地球上で偶然めぐり合った同士として、何よりも良いチームになろうとするのだ。 見えないけれども確かに存在し、家族や社会を締め付ける家父長制に対するこの軽やかな抵抗の物語を、今ぜひおすすめしたい。(シスターフッド書店Kanin・井元あや)
父の革命日誌
発禁本の誘惑 ジャケ買いはすきだ。 目についたのはかわいいイラストときれいな緑。 けれどひっくり返した帯にあったのは「発禁作家による長編話題作」 それでいて「韓国で32万部突破!」と書いてある。 もう、購入決定だった。 共産主義武装組織の元パルチザンというのが主人公、アリの両親である。 思想で頭でっかちに思える父サンウクは厄介な存在だ。 正論を吐く、余計な一言を言う、労働は苦手、女性に弱い、外面がいい、借金は背負う、 だからとにかく貧しい、しかも最後には電信柱に頭をぶつけて死んでしまうのだ。 思わず私自身の父親を思い浮かべて苦笑いが出た。外面がいいって本当に家族は大変なのだ! 次から次へと葬儀に訪れる人々の語るサンウクのでたらめエピソード。 怒って呆れつつブラックジョーク過ぎて大笑い。 でも、最後にたどり着いたアリには心から寄り添える。 娘から見た父親なんて本当はとびっきりの外面なのかもしれない。 ね、お父さん。(紀伊國屋書店広島店・藤井美樹)