声優の宮村優子さんは「バセドー病」と「橋本病」の両方を経験…壮絶闘病を語る
【独白 愉快な“病人”たち】 宮村優子さん(声優/51歳) =バセドー病・橋本病 元の心臓より小さくなったので…スギちゃん先天性の心疾患「心房中隔欠損症」を振り返る ◇ ◇ ◇ 「バセドー病」と「橋本病」は、どちらも新陳代謝を促進する甲状腺ホルモンのバランスが崩れる甲状腺疾患です。甲状腺ホルモンが過剰になるのがバセドー病で、減少してしまうのが橋本病。私はその両方を数年の間に経験しました。 不調の始まりは、2004年に第1子を出産し、子育てに夢中になっていた頃でした。気力もあって体は動くし食欲もあるけれど、常に動悸がして、疲れを感じ、痩せていくのです。そのうち、眼球が目立つようになりました。でも授乳もしているし、仕事もしていたので、そのせいで痩せたのだろうと思っていました。 病院を受診したきっかけは、友人から「乳がんになった」という話を聞いたことです。「早期発見が大事だな」と思って、人間ドックを受けてみたのです。すると「がんはないが、甲状腺の専門病院へ行った方がいい」と言われて、当時住んでいた大阪の「甲状腺といえばここ」という専門病院を受診しました。血液検査の結果、甲状腺ホルモンの数値が高く、バセドー病と診断されたのが2006年です。 その後は定期的に通院しながら薬を服用し、正常値に近づくごとに薬の量を減らしていきました。 困ったのは、眼球が突出して、まぶたが閉じないくらい悪化したときです。子供には「寝てるとき白目で怖い」と言われました。しかも、数値が良くなっても元通りにはならないんです。ただ、ひどくなる一方だった頃に比べて、薬で目が突出する進行が止まってくれたので、そのまま少し落ち着いた感じです。 2年間ぐらいすると薬を飲まなくてもいい状態になり、通院が終了。いつ再発してもおかしくない病気なので、本来は完全に治療終了とはいかないのですが、2人目の子供が欲しかったので、薬を飲まない選択をしました。
喉の筋肉が衰えて食事をするのも疲れるように
2008年には家族でオーストラリアに移住し、しばらくは症状も出ず、順調に第2子を出産しました。それが2011年。その後、体調がむちゃくちゃ悪くなりました。とにかく気力も体力もなく、疲れすぎて起き上がれないのです。全身の筋力が衰えている感じ……。朝、最低限の家事をしたら、ベッドに倒れ込むくらいでした。 バセドー病の時は、気力がみなぎっていて体もよく動く中で疲れていたけれど、この時は、ただただ疲れていました。でも、子育ても上の子と生まれたばかりの子の両方でしたし、39歳になっていたので、そのせいだと思いました。当時は橋本病の症状を知らなかったのです。一番ひどいときは物をのみ込むための喉の筋肉も衰えて、食事をするのも疲れました。 橋本病がわかったのは、仕事で久しぶりに一時帰国したとき。マネジャーが私の顔を見るなり驚いて、「病院に行った方がいい」と言ってくれたのです。動作は遅いし、声は出ていないし、大変だと思ったそうです。 すぐに病院に行くと、橋本病と診断されました。この病気は認知機能も落ちてしまうので、記憶があまりありません。 甲状腺ホルモンの数値を上げる薬を処方され、オーストラリアに戻ってからは現地の甲状腺専門病院に通いました。採血して、数値を見て、薬が出る、という流れは同じでしたが、ただひとつ違ったのは、初診で脚気の検査をされたこと。いまだに意味不明です(笑)。それから2年ほど通院して薬を飲まなくてもいい状態になり、今はおかげさまで正常値をキープしています。 バセドー病と橋本病の両方を経験して、体がバセドー寄りになっているか、橋本寄りになっているかを察知できる感覚が身に付きました。人によって感知するサインは違うようですが、同じ病気の友達にも聞いてみたら、「その感覚はある」と言っていました。 私の場合、バセドー寄りになると動悸が増えて、呼吸が浅く速くなるんです。深い呼吸をしようとするけれど治らない。そうなったら、休むサインです。橋本寄りのサインは、舌の奥が重くなる感覚。どちらにしてもサインが出たら早め早めに体を休めるようにしています。いつもシーソーの真ん中に立って、どちらかに傾かないようにバランスをとっている感じです。 オーストラリアでは、判断力がきちんと働かないうえに、気心の知れた友達もいなくてつらかったです。でも頑張ろうと思えたのは、「名探偵コナン」のプロデューサーの言葉です。努力しても声が出なくて、「レギュラーを降りたい」と申し出たとき、「理由が病気なら、きっと治るから続投してください。余計なことは気にせず治してください」と言われたのです。クオリティーが良くないのに、「OK」になっていることもわかっていました。それでも、私に帰る場所を残してくれたことが力になりました。 じつは私、根がオタクで人見知りなので友達をつくるのが苦手なんです。でも病気を経て「お友達って大事だな」と学びました。最近はゲーム配信友達ができて、生存確認してもらっています(笑)。 同じ病気でも入院するほど重いケースもあるので、自分が経験したことがすべてじゃないと自覚して、決して侮らず、自分と向き合って生きていこうと思っています。 (聞き手=松永詠美子) ▽宮村優子(みやむら・ゆうこ) 1972年、兵庫県出身。90年代から声優として活躍。「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの惣流・アスカ・ラングレー役、「名探偵コナン」の遠山和葉役など人気作品に数多く参加している。ほかにもドラマや映画で女優を務め、シンガーとしてCDも多数。著書に「声優 宮村優子 対談集 アスカライソジ」がある。