「お前なんて落ちるに決まってる」中学受験「塾友」の心ない攻撃に親ができること
塾の友達と喧嘩した理由
問題は、試験が終わってからだった。孝多は翌日の朝になっても、そわそわして勉強をはじめない。机に向かったと思えば、すぐに立ち上がって冷蔵庫を開ける。模試の判定で何度もA判定を得ている前受けで入学試験の雰囲気を経験するのは良かったが、合格するかどうかで不安になるとは思わなかった。 簡単だったという感想も、やっぱりむずかしかったと変わり、ダメだったらどうしようと頭を抱える。そんな不安を吹き飛ばすように勉強するしかないのだが、やっても結果は変わらないといって親の忠告を聞こうとしない。 受験のストレスで苛立っているのは、ほかの子も同じだった。この日孝多は、塾から帰るなり顔に絆創膏を貼りはじめた。事情を訊くと、A君という塾の友だちにやられたという。きっかけは些細なことだ。太ってるだの足が遅いだのといういい合いから、殴り合いになっていた。 「お前なんて、落ちるに決まってるっていうからさ」 やはり原因は同じだ。不安なところを突かれてカッとなってしまったのだろう。A君が見返すほど勉強すればいいが、そうは頭が働かない。 A君とは小学校のクラスも同じで仲が良いが、その裏返しでケンカも多い。生まれが早いので頭もよく、いい負かされて泣くのはいつも孝多だ。嫌いなら距離を置けばいいのに、それでも一緒に遊びたいというから手に負えない。 塾の友だちは貴重だ。同程度の学力の友だちが集まるので、張り合いになるし、刺激になることが多いのだが、逆にけなし合うと手加減を知らないので、相手を傷つけあってしまう。本番前にやる気を失いかねないのが心配だった。 それでも、友だちを悪く言っても仕方がない。ぼくができるのは、ただ話を聞くことだけだった。 ◇後編「中学受験第一志望直前に「塾友」と再び大喧嘩…「2000円高級シャープペン」の意味」では、A君との再び勃発した大喧嘩についてお伝えする。
森 将人(元証券ディーラー)