「お前なんて落ちるに決まってる」中学受験「塾友」の心ない攻撃に親ができること
入試前日、子どもと一緒に布団に入る
子どもが生まれてから12年間、ぼくはほぼ毎日一緒に布団に入っている。孝多が低学年の頃までは絵本を読んでいたが、受験勉強が本格化してからは寝るのが早い。試験前日ということでさらに早く布団に入ると、この日は何度も寝返りを打っていた。 「眠れないか?」 「まだ早いからかな」 「はじめてのテストだから、緊張してるのかもしれないな」 「パパも眠れなかった?」 「高校受験の前日はな」 ぼくにとって、はじめての入試が高校受験だ。本命が公立高で、チャンスは一度しかない。目がぱっちり覚めてしまって、眠れないと焦るほど意識が鮮明になってしまう気持ちはよくわかる。 孝多は思い立ったように布団から起きると、妻からもらったアイマスクを持ってきた。目を温めることで疲れを取る効果があるという。これも受験の武器のひとつか。アイマスクをすると、孝多の表情がわからない。じっと顔を見ていると、視線を感じるのか、孝多がマスクを下げた。 「明日の学校って、どこにあるの?」 「長野県だよ。駅伝が強くて有名らしいぞ」 「男子校?」 「たしかそうだった気がするけど……」 孝多の質問に答えられずスマホでホームページを見てみると、女子の写真が目に入った。共学だ。 「前受け校」は試験に慣れる意味と、「成功体験を得る」ことを目的として日程と受験環境で決めることが多い。合格しても通うことは想定していないといえ、共学か男子校かも調べていなかったのは無防備過ぎたかもしれない。受験させるということは、その学校に6年間子どもの人生を預ける可能性があるということだ。 孝多はすでに眠りについていた。夜中何度か布団をかけ直してあげると、いつの間にかアイマスクが首もとにずれている。違和感があって、無意識に外してしまったのだろう。安心して寝るためのおまじないということか。武器には安心を得るという効果もある。
試験が終わった息子を待つ
はじめての入試は、まずまずの手応えだったようだ。東京の受験会場のひとつである慶應大学三田校舎の大銀杏の下を待ち合わせ場所にしたが、試験の終了時間を過ぎても孝多が出てこない。携帯に電話しようかと悩んでいたところ、驚かすようにぼくの背中を押してきた。その笑顔を見てほっとする思いがした。 「ビックリした?」 「やめてくれよ。待ってたんだぞ」 このキャンパスだけで1000人以上が受験しているのだろう。親も入れると2000人以上がごった返す会場は、お祭りのようだ。受験生の数に圧倒されたのか、めずらしく孝多がぼくの手を握ってきたので、手をつないで歩くことにした。 子どもに受験の感想を聞いてはいけないというが、歩いているとほかの子の会話が嫌でも耳に入ってくる。算数がむずかしかったという感想が多いようだ。 「オレはべつに普通だったけどね。社会を先にやって良かったよ。時間も余ったし」 佐久長聖中学は、社会と理科を共通の時間内に解くという方式だ。得意な教科を先に終わらせたので、時間に余裕ができたということだろう。合格しそうな手ごたえはあるのか。それが一番訊きたいが、反応が怖い。孝多のすっきりした表情に良い結果を思い浮かべるだけにした。