改正食品衛生法で小規模漬物業者の廃業相次ぐ 漬物文化衰退の懸念も
6月からの改正食品衛生法の完全施行を受け、漬物業界の構造変化が加速しそうだ。法改正で漬物製造が営業許可制へ移行し、事業継続に必要な投資コストのハードルの高さから廃業を選ぶ小規模事業者が続出。市場規模の縮小が懸念されるとともに、地域ごとに特色を持つ漬物文化の衰退につながる可能性も否定できない。業界では漬物本来の文化的価値の維持も視野に、企業間や行政の連携で市場課題の克服へ乗り出す機運が高まっている。
文化継承へ業界、行政の連携強まる
食品衛生法は12年の白菜の浅漬けによる集団食中毒事件をきっかけに、HACCPに沿う衛生管理の制度化や営業許可制度を見直した改正が18年に公布、21年に施行した。 改正法の決定後は全日本漬物協同組合連合会が主導し、関係各社は国際衛生基準のHACCPに基づく設備投資や施設改修など順次対応を促進した。しかし、営業許可取得のための設備改修には多額の資金がかかる。改正にともない、道の駅や産地直営店などに卸していた小規模の農家や個人店、メーカーなど費用負担の回収が見込めず製造販売を断念した事業者も多い。 地場産業の漬物は土地由来の原材料に依拠する多様性が特徴の一つだ。広島の広島菜、秋田のいぶりがっこ、福岡や熊本の高菜など、全国的に知名度が高い漬物も元は一部地域で製造し喫食されていた。ユネスコ無形文化遺産登録から10周年を迎えた和食にも、地域性に富んだ漬物は欠かせない存在だ。製造業者減少による文化的裾野の縮小は市場の画一化を招き、漬物が持つ本来の強みを失うことになりかねない。 そうした課題の克服へ向け、事業者や自治体が連携して対応する動きが強まっている。梅干しでは複数事業者の協力でHACCP対応の加工設備を持たない小規模農家のサポートや各地での製造所の整備、製造所建設を検討する農家への情報提供などを実施。いぶりがっこなど地域の漬物製造環境の維持へ向け、共同加工場の新設に取り組む団体や助成金の申請窓口の設置を行う自治体もある。 業界全体でも地域に主眼を据え、市場活性化へ取り組む活動が盛んだ。4月開催の漬物グランプリでは地域の食文化を生かした雄勝野きむらやの「みずの実っこ」が法人の部で大賞を受賞し、学生の部や個人の部でも地元の農産物を活用した漬物が受賞するなど「地域性」を意識した審査が行われた。秋本食品が6月に開催した展示会ではキムチや浅漬けなどの定番に限らない多彩な商品紹介を行い、画一化する売場からの脱却を提案。全国各地の特色ある漬物を展示し、乳酸発酵がもたらす風味や長期保存の効果を紹介した。 現代は若者が漬物を食べない以前に、漬物を知らないという声もある。漬物業界は伝統文化の継承や消費促進といった共通課題の対応へ向け、1次生産者含む事業者や行政が一丸となって市場活性へ取り組む姿勢が不可欠な局面だ。
日本食糧新聞社