ついにサケの密漁まで「闇バイト事件」に…では“おとり捜査”が導入されたら「犯行グループを一網打尽にできるのか」 元刑事に尋ねてみると
捜査上の問題点
元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は、「高市さんのような影響力のある方をはじめ、一連の闇バイト事件の状況を受けて、政治家がこの問題に本気で取り組んでくれるのは、非常に意義のあること」とした上で、おとり捜査についてこう語る。 「おとり捜査とは、麻薬取締官には認められています。例えば覚醒剤の売人に接触し、『買うよ』と実際に現金を見せて相手を信用させ、売買を持ち掛ける。むこうが応じたら取引の現場で逮捕などをするものです。警察にはこの手法は使えません」 仮に闇バイト事件で警察官が身分を偽装して犯人グループと接触するおとり捜査を展開したらどうなるのか? 小川氏にシミュレーションしてもらった。 「まず、捜査員がどこまで対象の犯罪に加担していいのか、事前に細部まで決めておく必要があるでしょう。(1)闇バイトに応募して、指示薬とアプリでやり取りしてもいい――。次に(2)指示された場所に他のメンバーらと集まるのもOK――。そして、やり取りを重ねるうちに『タタキをやるぞ』となったら、捜査員はGPSなり追尾可能な装備を着けて(3)犯行現場まで行ってもいい――などという具合に」 おとり捜査員も加わったメンバーが強盗事件を起こす現場には事前に捜査員を配備。被害者が実際に被害に遭わないよう、メンバーが強盗に着手したら現行犯で逮捕――だが小川氏は「それは意味がありませんね」という。 「その場で逮捕できるのは実行役だけです。所沢の事件では資金管理役が存在しました。他のメンバーも含め、なんとか指示役までたどり着くためには、メンバーをそのまま泳がせるのか。あるいは強盗が成功したフリをして、『奪った金を持ってこい』と指示された場所まで追いかけるのか。仮に後者を選択した場合、金の受け渡しの現場に来るのは、これもバイトで雇われた運搬役でしょう。さらにそこから捜査を続けていくと、指示役までたどり着くまでかなりのハードルと時間を要します。また、実際に強盗事件が起きるのですから、ニュースを報じる各報道機関との関係も考慮しないといけません」 おとり捜査を導入しても、難しい問題があるようだ。また、警察の捜査がどこまで許容されるのかをオープンに議論すると、その中身が犯罪者側に筒抜けになってしまう危険もある。といって、非公開・密室の議論で進めてしまうと、これも問題視される。だが、 「捜査の現場では、これまでも創意工夫を凝らして、様々な壁を乗り越えてきました。ルフィ事件では秘匿性アプリの解析にも成功し、指示役を逮捕しています。今回も警視庁を中心とした合同捜査本部は次々と被疑者を逮捕し、事件の実態解明から全容解明へと着実に進んでいます。また、世間に事件の重要性を訴え、関心を抱いてもらうために政治が動くことは大きな意味がある。各方面からの意見や問題提起をもとに議論して頂くのは非常によいことだと思います」 デイリー新潮編集部
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