何が浦和レッズ”お祭り男”槙野智章の復活を支えたのか…「意地と経験の差を出せた」
もちろん、センターバックとしての仕事もまっとうする。22歳の一美和成と18歳の斉藤光毅で組む2トップを中心に、若さと勢いにあふれる横浜FCの攻撃陣を強さ、高さ、そして老獪さで鈴木とともにシャットアウト。後半7分にFWレオナルドが、同アディショナルタイムにはMFエヴェルトンが決めたゴールを呼び込んでの快勝を、大槻監督も高い評価を与えている。 「(連敗した2戦は)我々からすると(自分たちから)手放したようなところがあったので、今日は自分たちで取り返す、という思いをもって臨んだ。しっかりとした守備から入ることを表現してくれた」 誰よりもSNSを駆使するJリーガーとしても知られる槙野が、横浜FC戦を前にして自身のインスタグラム(@makino.5_official)へ投稿した写真と文面がちょっとした話題を呼んだ。 止血するために頭に巻いたバンテージを赤く染めながら、2017年当時のキャプテン、MF阿部勇樹と肩を組んで吠えている写真にはこんな言葉が添えられている。 「俺は怪我なんかしとらんぞ! むしろ元気じゃ! この時だって、頭から血を吹き出しても交代せず闘った。槙野はまだ死んどらんぞ! くたばってたまるか。」(原文のまま) オンライン会見でインスタグラムの件を問われた槙野は、豪快に笑い飛ばしながら「みなさんに誤解してほしくないのは、試合に出たいとアピールしたんじゃないんです」とこう続けた。 「ファンの方々から『けがをしたのですか』と毎日のようにメッセージが届くので、あえてけがはしていません、と言わせていただきました。言葉のニュアンス的に、あるいは受け取られ方で、アピールしたと受け止められても仕方がなかったのかもしれませんけど」
ファン・サポーターを大切にする槙野は、33歳という年齢を「ベテランだとは思っていない」と位置づけてきた。いつ出番が訪れても、求められるパフォーマンスを演じるために。常に心身のコンディションを整え、勝利という結果を添えて弾き出した一発回答は巻き返しへの狼煙になるはずだ。 「今日の僕を見ていただいてもわかると思いますけど、なかなかチャンスをもらえないなかでもしっかりとプレーできましたし、意地というか、経験の差も出せたと思う。これまでと同じくスタッフやチームメイトにも助けられながら壁を乗り越えたことで、自分へのミッションをコンプリートできました」 6分間を大きく超えた槙野への取材のあおりを受けたからか。先制点をあげながらオンライン取材での質問が2問に限定された、ヒーローのレオナルドはこんな言葉を残して席を立っている。 「久しぶりのオンライン取材だったのに。槙野選手のインタビューが長くなったおかげで2問になったので、これからケンカします」 もちろんジョークであり、ガイナーレ鳥取でJ3の、アルビレックス新潟ではJ2の得点王を獲得した23歳の新戦力の表情には笑みが浮かんでいた。サンフレッチェやレッズだけでなく、日本代表でもムードメーカーを担い続けた男は、周囲を常に明るく和ませるオーラも身にまとっている。 新型コロナウイルスによる長期中断の余波で、異例の過密日程を強いられる今シーズン。チームの総合力が問われる戦いで存在感を示し、連敗を食い止める原動力になった槙野は「また自分の出番が来るときに、100%の状態で臨みたい」と12月19日まで続く、残り27試合を見すえていた。 (文責・藤江直人/スポーツライター)