「これまで以上に企業の姿勢が、デジタル領域で問われている」: パナソニックコネクト 取締役執行役員ヴァイスプレジデントCMO 山口有希子 氏
──大企業にはジョブローテーションの文化があり、専門家が育っていないという側面も感じられる。
デジタルの領域は非常に深く、複雑だ。責任者が3年で変わってしまうという問題は多くの日本企業で起きていることだが、専門家を会社のなかに育てなくてはいけないと確信している。プロフェッショナルが社内にいれば、その知見が横に波及し、会社全体の底上げにもなる。この問題への取り組みも加速するはずだ。 日本ではその部分をエージェンシーが担い、広告主への教育も含めて安心安全な広告出稿に努めるという仕組みが築かれてきた。しかし、エージェンシーにおまかせするだけではなく、自分たちのブランドは自分で守るという意識がないと、対応するのが難しくなってきた。そこまで、市場は粗雑化している。
──パブリッシャーやエージェンシーサイドより広告主のほうがこの課題に対する認識が薄いというデータがある。このリスクの希薄さについてどう思うか?
広告主が現状のリスクに気づいていないというのは、非常に残念だ。すべてのエージェンシーからクライアントである広告主に対し、こうした課題を提言することはなかなか難しいだろう。そうなれば、広告主が受動的であればあるほど、問題に気づかない。 しかし、この難題に立ち向かうモチベーションを一番持たなければいけないのは広告主だ。広告主が裸の王様になってしまう状況は見過ごせない。だからこそ、日本アドバタイザーズ協会(JAA)のデジタルメディア委員会などを中心に、啓蒙活動を進めている。もちろん、エージェンシーにも、いまのデジタル広告がどういう状況でどういった別の手法があるのか、対話を通じて広告主に示してほしい。
──今後、市場はどのように変わり、誰がリードしていくべきだと思うか?
デジタル広告の出稿費はマスメディアを超え、パフォーマンスだけではなくブランディングも担うフェーズに移行している。もはやデジタルはフルファネルの顧客にアプローチが可能で、もっとも重要な顧客接点になっている。 企業において、デジタル広告の課題を広告部門だけで対処するのは限界だと感じている。もはやコンプライアンスの問題に発展してしまっており、経営課題として捉える必要がある。いま、もっともこの課題を知らなければいけないのは経営者だ。デジタル広告は、麻薬などを扱う反社会的勢力の2番目の資金源になるというレポートも出てきている。 予算を使い、新たなリソースを投入しなければいけないのであれば、現場だけで改革することはもはや不可能だ。これまで以上に企業の姿勢が、いまデジタル広告という領域で問われている。広告は企業のオフィシャルな声であり、企業スタンスを伝えることはブランディングだ。本質をしっかりと認識して、やるべきことを選択してほしい。