「愛と多様性がこの国を作っていると、世界に示したい」 五輪モード、緊張と高揚に包まれた開幕直前のパリを歩いた
100年ぶりの夏季五輪が目前に迫るパリは、「五輪モード」へと姿を変えている。開会式が行われるセーヌ川や、競技会場となる世界的観光名所には観客席や特設ステージが設置され、普段の街並みは姿を消した。すでに厳戒態勢で、楽しげな観光客でにぎわう傍らをフランス軍兵士や警察が集団で警備に当たる。開幕直前の緊張と高揚が包む街を、五輪取材のため日本から出張中のカメラマン二人で歩き回った。(共同通信=坂野一郎、金子卓渡) 【写真】五輪、日本の「金」13個と予測 パリ開幕直前、米データ会社
▽封鎖 「シャルル・ド・ゴール空港とパリ市内とを結ぶ高速道路上で強盗被害が多く発生しています。鈍器や石のような物等で車の窓ガラスを割り、膝やシートの上に乗せていたバッグ等を強引に奪うものです」 在仏日本大使館の注意喚起を渡航前に目にしていたので、治安が懸念だった。パリに着陸する前から緊張し、シャルル・ド・ゴール空港に着いてからは周囲を見回しながらタクシーに乗った。結局強盗には遭わず、無事にパリ郊外のホテルへと到着した。この日は中心部には行かず、翌日から街を歩くことにした。 一年前に取材で訪れたパリとは風景が一変していた。史上初めて競技場外での開会式が開かれるセーヌ川岸には銀色の観客席が張り付くように組まれ、作業員が完成を急いでいた。街中の橋や道路はあちこちが封鎖され、バリケードだらけだ。ルーブル美術館のピラミッド前やエッフェル塔下など多くの観光客が集まるエリアにはライフル銃を持ったフランス軍の兵士が巡回し、ものものしい雰囲気がある。セーヌ川も警備艇が頻繁に行き来する。18日からはセーヌ沿いのエリアを中心に警備が強化され、住民や関係者以外の通行が制限された。
▽「パリ市民のためではない」 昨日通れた橋が今日は通れない、というほどめまぐるしく街が変化している。歩道が使えなくなり、車道を歩く人もいた。元々ひどい車の渋滞はさらに悪化。中心部にある地下鉄駅は封鎖され、利用できなくなっている。 セーヌ川沿いで古書店を営むフィリップ・ルジャンドルさん(57)は「パリ市民のための五輪ではないね」と苦笑いする。渋滞や封鎖で、仕事と生活に支障が出ていて、五輪期間中はパリを離れる人も多いという。「人が集まればテロや犯罪のリスクは増す。観光客も減っている印象だが、制限が厳しくなるのは仕方がない面はある」と話す。 通行制限などの対策によって、人混み自体が減った印象で、去年目立った強引な物売りや路上に座り込む人たちの姿は減っていると感じた。一方で、市内ではホームレス追放反対を訴え、五輪に反対するデモも起きていた。 ▽目前の高揚 厳戒態勢にはあるが、五輪の高揚は確実に近づいてきている。歴史的名所も、競技場へと変貌した。フランス革命時にルイ16世やマリー・アントワネットがギロチンで処刑されたコンコルド広場は、ブレイキンなど都市型スポーツの特設会場に。スケートボードや自転車BMX、ブレイキンの舞台となる特設ステージが広場を覆っていて、その隙間にそびえ立つオベリスクが面影を残している。