中国シャオミ、EV輸出準備 スマホ販売網活用
中国スマートフォン大手の小米集団(シャオミ)が、自動車事業の海外展開を準備していることが分かった。複数の関係者が明らかにした。シャオミは国際部門の下に海外販売事業準備チームを創設したほか、自動運転部門の中に複数の海外市場向けポストを新設し、海外で自動運転機能の規制検証や実用化に取り組むという。傘下の電気自動車(EV)ブランド「小米汽車(Xiaomi Auto)」を海外進出させる上で、自動運転を極めて重視していることが読み取れる。 関係者によると、海外販売事業準備チームはまず複数の地域で小規模販売を始め、市場の反応を見極めてから大規模な海外展開の準備を進めていくという。小米汽車の海外販売は、主に国際部が運営するリアル店舗「小米之家(Mi-Home Store)」が担当する。海外の直営店はすでに100店舗以上に上る。シャオミの盧偉氷総裁はこのほど、今後5年間で海外に1万店のMi-Home Storeをオープンし、同社独自の「人・車・家をつなぐエコシステム」、そしてネットとリアル店舗を組み合わせた小売モデルを海外市場で展開すると明らかにした。 シャオミは海外で直営店に加えて数千店規模の代理店を展開しており、ここ数年は海外売上高が全体の5割以上を占めている。スマートフォンやタブレットなどの製品を通じて築き上げたユーザーの口コミ評価とブランド力は、自動車販売の強固な基盤となるだろう。
スマホで築いたブランド力で欧州市場を切り開く
ある業界関係者は、海外を目指す中国自動車メーカーにとって最大の課題はブランド力の構築だとし、「多くの中国自動車メーカーは欧州でリアル店舗を開設しているが、地元メーカーの店舗に比べると入店者数はかなり少ない。興味を持って入店した人たちも、ブランドの紹介を聞き終わった段階でほとんどが出ていってしまう」と話す。 オンライン販売を得意としているシャオミだが、欧州で成功できた主な要因はオフラインの販売チャネルを構築できたことだろう。同社は現地の運営事業者と緊密に協力し、現地に合わせたマーケティング戦略を展開してきた。同社は自動車業界に参入して間もないが、どの中国自動車メーカーよりも海外市場を熟知し、事業運営の経験を積み上げてきた。このことが、シャオミの自動車事業の海外展開にも有利に働くはずだ。 シャオミは、手頃なスマホブランドとして海外でも一定の影響力を獲得したが、ハイエンド市場では依然として認知度が低い。調査会社Canalysが発表した2024年7~9月の欧州スマホ販売台数で、シャオミの市場シェアは18%で3位だった。しかし、ハイエンドスマホ市場ではシェア2%足らずにとどまった。 シャオミが打ち出す電気自動車(EV)「SU7」シリーズは、ハイエンドモデルに位置付けられている。中国から輸出するため、関税や輸送コストが加わって、海外での販売価格はさらに上昇する。ハイエンド市場での認知度向上が課題となるのは間違いない。 東南アジアや南米市場では中国製EVの輸入台数が急増しており、欧州市場では手頃な価格のEVが伸びている。ハイエンドモデルのEVを手がけるメーカーも最初の進出先に欧州市場を選ぶケースが多く、蔚来汽車(NIO)や小鵬汽車(Xpeng)、極氪(ZEEKR)などの新興EV各社もすでに欧州に進出している。 欧州自動車工業会(ACEA)によると、2024年6月に欧州で登録されたピュアEV20万台のうち、中国ブランドが2万3000台と11.1%を占めた。最も多かったのは上海汽車集(SAIC)の「MG4 EV」で1万3000台、販売価格は3万1990ユーロ(約520万円)だった。一方、販売価格5万9000ユーロ(約960万円)と高額なNIOの「ET5」は、ドイツでの販売台数がわずか34台にとどまった。ハイエンドモデルには厳しい状況だ。 しかし、シャオミのEVには市場を切り開く可能性がある。現在のところ、欧州で最も売れているスマホはアップルのiPhoneで、自動車の販売台数トップ3はフォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、BMWの地元大手だ。3社はすでにアップルの車載システム「CarPlay」の更新を取りやめ、巨額の資金を投じて独自の車載システムを開発している。しかし、欧州メーカーはハードウエアの基礎が不十分なため、しばらくの間は自動車単体のスマート化に集中することになるだろう。 シャオミには、人・車・家をつなぐエコシステムという独自の強みがある。スマホと車、その他のスマートデバイスをつなぐことで実現する多様なスマート体験が、市場を切り開く鍵となる。とはいえ、海外でこの強みを発揮するためには、データと規制の問題をクリアしなければならない。また、高い関税や物流コストも課題となるため、現地に合わせた開発とマーケティングが重要になる。 シャオミにとっての自動車輸出は、車の販売にとどまることはない。人・車・家をつなぐエコシステムという概念を輸出することこそが、同社の目指す方向だ。スマホと車を手がける世界でも数少ないメーカーで、ユーザー基盤とブランド力を兼ね備える企業として、中国ハイエンドEVの海外進出の突破口を開くことが期待される。 *1ドル=約157円、1ユーロ=約163円で計算しています。