“奇跡”が“軌跡”となったKISEKI trialの裏側――臨床腫瘍学会の患者・市民向け特別プログラム「PAP」リポート第2弾
2024年2月22~24日に開催された第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(https://www.congre.co.jp/jsmo2024/)では、がん患者さんやご家族、市民が参加できる特別プログラム「ペイシェント・アドボケイト・プログラム(以下、PAP)」も行われた。PAPプログラムリポート第2回は、昨今関心が高まる臨床研究における患者・市民参画(PPI)とがんゲノム医療についてリポートする。【全2記事の2】 (ペイシェント・アドボケイト・プログラム(PAP)<https://www.congre.co.jp/jsmo2024/pap.html>)
◇PAP基礎講座6「臨床研究における患者・市民参画(PPI)の推進」
基礎講座6では、がん研究に患者・市民の視点を取り入れる患者・市民参画(PPI:Patient and Public Involvement)について、具体的な成果を織り交ぜながら講演が行われた。発言要旨を紹介する。 ◇ ◇ ◇ ●中村健一先生(国立がん研究センター中央病院国際開発部門) PPIとは「医学研究・臨床試験プロセスの一環として、研究者が患者・市民の知見を参考にすること」と定義されている(AMED患者・市民参画(PPI)ガイドブック<https://www.amed.go.jp/ppi/guidebook.html>)。 そもそもなぜ臨床試験が必要なのだろうか。ある薬の効果を検証するためには、“薬を投与したグループ”と“薬を投与しなかったグループ”の効果を比較する必要がある。コロナ禍でのアビガン(ファビピラビル)をめぐる混乱がよい例だ。2020年春、政府は世間の“空気”に押される形で、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対して未承認であったアビガンを日常診療の一環として投与することを許可してしまった。これにより、国内で行われた臨床試験には十分な患者数が集まらず有効性を比較するに至らなかった。しかし同時期、イギリスでは大規模ランダム化比較試験が実施され、数々のエビデンスが創出された。結果として、新型コロナに対するアビガンの有効性は示されず、2022年10月開発は中止された。この混乱で、有効性が示されなかった薬を何万人もの日本人が超法規的に服用することになった。得られた教訓があるとすれば「よいらしい」を信じないことだ。臨床試験で科学的に正しく効果が検証されるまで「その薬が有効かどうか」は分からない。 では、なぜ臨床試験にPPIが必要なのか? その目的は大きく2つある。1つは、真の患者のニーズを把握することだ。研究者は患者のために研究を行っているが、研究者は意外と患者のことを知らない。もう1つの目的は、臨床試験は未来の患者のために必要不可欠であることを正しく理解してもらうことだ。政府や企業に対しても研究者が患者と連携して働きかけを行いたい。PPIはステークホルダーマネジメントとして一般的なプロダクト開発の文脈で発達してきた方法論の1つだ。顧客理解、リスク管理、ビジネスインサイト、信頼関係の構築、イノベーションの促進などの観点から、よりよい成果の創出を目指して行われる。