全日本を75秒圧巻V…なぜ東京五輪女子ボクシング金メダリスト入江聖奈は「あと1年で引退」の決意を撤回しないのか
反省点は力んで強引に倒しにいった部分。 「技術的な部分で攻めていきたかったのが本音」と漏らし、ボクシング論に熱が入った。 「初戦に回すフックをやったが、全然。(打つ)体勢もできていない。攻撃も一段階に終わっている。二段階、三段階といけたらもっと凄いことになる。(フィニッシュブローの)右もまだ強引すぎる。いろんな角度、いろんな種類で打ち込みたい」 ボクサーとして最強を求める探求心は失っていない。まだ21歳。2024年のパリ五輪での前人未到となる連覇の夢は広がるが、あの東京五輪後の仰天発言を撤回することはなかった。入江が金メダル獲得後に明かした「ボクシングをやるのは大学まで」の引退発言である。 あと1年で引退という気持ちに変化はないのか? 「はい。いまのところ、あと1年かなあと思っていて。でも、気まぐれところがある。やりたいと思ったらやる。とりあえずは辞める予定にしています」 現在大学3年の入江が卒業するのは2023年の春。実質、引退まであと1年だ。 五輪後に心境の変化があったのか?と質問されても「五輪1か月後は、やっちゃおうかなと思っていたんですが、やっぱないなあと思って今にいたります」と言う。 なぜ若き天才ボクサーの入江をここまで躊躇させるのか。 この日、本音を明かした。 「自分が(卒業後)どこでボクシングをやっているかの想像がつかなくて。地元の鳥取に帰るのか。自衛隊体育学校に行くのか。日体大に残るのか。どれもイメージが湧かなくて。だから辞めるかなという感じです」 金メダリストを引退の方向へ追い込んでいるのは。大学卒業後の先が見えないという女子ボクシング界を取り囲む厳しい現実がある。 いみじくも入江が口にしたが、アマチュアの女子ボクシングに柔道界のような実業団チームはなく、レスリング界のように社をあげて全面的にスポンサードしてくれる企業もない。東京五輪のフライ級で銅メダルを獲得し、この日の全日本でもフライ級で初優勝した並木月海(23)が所属している自衛隊体育学校か、大学の職員、或いは国際試合や合宿参加で会社を長期休むことに理解がある民間企業を探して就職するくらいしか手段はないのが現実なのだ。さらにアマを“卒業”した後のセカンドキャリアにまた困る。 ロンドン五輪の金メダリストの村田諒太(帝拳)は、思い悩んだ末にプロの道へ進み、WBA世界ミドル級王者となった。12月29日に、ミドル級最強のビッグネームIBF世界同級王者のゲンナジ―・ゴロフキン(カザフスタン)と世紀のビッグマッチを戦う。史上最高のファイトマネー。サラリーマンの生涯賃金にあたる金額を手にすることになり、金メダリストとしての華麗な転身に大成功した。だが、女子のプロボクサーで言えば、世界的に見ても、成功例は数えるほど。国内でも世界王者が数多く誕生。現在も日本人初の5階級制覇王者のWBA世界フライ級王者の藤岡奈穂子(T&H)ら3人の現役世界王者がいるが男子に比べて環境は厳しく、WBC世界アトム級、ミニマム級の2階級制覇王者で、WBA世界アトム王者との統一も果たし、17度連続防衛記録を作った小関桃氏でさえも、ボクシングだけで生活することはできず、現在は、理学療法士としての第二の人生を歩んでいる。