キコニワ、グラツナなど障害に関わるコンテンツを発信し続ける株式会社方角の思い
――世界のろう者・難聴者に関するデータベースサイトWDDBを立ち上げたきっかけはなんでしょうか? 方山:2023年の夏に韓国で開催された「世界ろう者会議」に参加したことがきっかけです。
方山:そこには各国の聴覚障害者が2,000人くらい集まっていて、その一人一人に違いがあり、実に多様であることを痛感しました。 また、聴覚障害者を取り巻く状況について、世界から学ぶことはたくさんあるとも思いました。 日本の聴覚障害当事者って、障害者手帳保持者に限定すると35万人くらいいるといわれているのですが、世界的に見ると4億6,000万人ほどいるんです。それってすごい数字じゃないですか。 そう考えると、世界中のさまざまな事例を知ることで、日本が次にすべきことも分かるはず。だから、その情報をデータベース化したい、聴覚障害について知ってもらいたい、そんな思いからWDDBを立ち上げました。 「アメリカの聴覚障害のマーケットはこれくらいか……」とWDDBを参考にしてもらい、商品開発が始まるような、聴覚障害周りの経済発展につながってほしいと思っています。
冷ややかに見ている非当事者を巻き込んでいくために
――聴覚障害者を取り巻く社会問題を解決するために、株式会社方角としてどう寄与できると考えていますか? 方山:デザインの力って無限大だと思うんです。例えば、情報発信一つとってみてもそうです。キコニワで発信していることって、正直、テキストにしてX(旧Twitter)に書き込むだけでも、「伝えた」とは言えるんですよ。 でも、ただテキストが並んでいるだけよりも、デザインに工夫を凝らすことで、もっと読んでもらえるかもしれません。だから、私は今後もデザインの力をあらゆる領域で活用していきたいんです。
――今後、より力を入れていきたいことはなんですか? 方山:聴覚障害に関する問題はたくさんあります。それを解決するためには、当事者と一緒に声を上げたり、パブコメ(※1)を出したりと、方法はいろいろありますが、方角の主たる役目はそこではないかなと考えています。 それは私が聴覚障害者ではないので、彼らの声を100パーセント理解して、一緒に声を上げることは難しいと思ったからです。 じゃあ、どういうアプローチができるか考えたときに、企業や学校、自治体が「障害者理解のために何かをしたい」ってなったときに、株式会社方角が「こういう形ならどうでしょう?」って、相談されるようなサポーターのような存在になりたいと思っています。 あと、もうちょっと大きな視点で取り組んでいきたいですね。これまで聴覚障害にスポットを当てて活動してきましたが、「なんでわざわざそんなことをしてるの?」と冷笑的な態度で見てくる人たちもいました。それにイラッとしてしまうこともあったんですけど、そういう人たちも巻き込んでいかないと、意識は変わっていかないでしょう。 サステナビリティと聞くと気候変動や脱炭素が思い浮かびますけど、DE&I(※2)や障害者雇用も持続可能な社会の要素に含まれているんですよね。だから、社会的に大きな流れであるサステナビリティ推進の文脈で、何か打ち出せることはないかなと、最近は考えています。 ※1.パブリックコメント制度の略。行政機関が命令等を定めようとする際に、事前に広く一般から意見を募り、その意見を考慮することで、行政運営の公正さの確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益の保護に役立てることを目的としている ※2.ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの略。人種や性別、年齢、障害の有無といった多様性を互いに尊重し、認め合い、公平性を重んじる、誰もが活躍できる社会づくりを指す ――多くの人が障害などマイノリティの情報に興味を持たないと、社会は変わっていきません。私たち一人一人ができることは何があるでしょうか? 方山:まずはキコニワを見てみてください。まさに、聴覚障害について情報をお持ちではない方々に向けたメディアでもあるので、そこから少しずつ知っていただければと思います。 仮に1,000人の聴者がキコニワを見たとしたら、そのうちの一人が「何かしてみよう!」と思ってくれるかもしれない。私はその可能性に賭けていますし、その割合を少しでも増やしていきたいです。 そもそも、誰もが自分の中にマイノリティ性を持っていると思うんですよ。ちょっと人と違う部分があるとか。自己分析をしてみて、自身のマイノリティな部分を理解する。そうすることで、他のマイノリティ性を持つ人にも、目を向けられるようになるのではないでしょうか。
編集後記
当事者ではないからこそ、社会に対してどんなアプローチができるのか。それをずっと考えてきた方山さんの言葉には、「確実にこの社会を変えてみせる」という覚悟が感じられました。 社会問題を解決しようとするとき、しばしば、当事者のマイノリティと非当事者であるマジョリティとの間に分断が生じることがあります。それを埋めるのは、方山さんのような存在なのかもしれません。 自分にできることを把握し、柔軟に対応していく。取材を通して、方山さんの姿勢を見習いながら、社会問題の解決について改めて考えてみたいと思いました。
日本財団ジャーナル編集部