森山未來×avex加藤信介×山峰潤也が語る。現代アートの新時代を切り開くための「MEET YOUR ART」
「現代アートはいまの時代の美しさや醜さ、疑問にアプローチしている」
―森山さんご自身も俳優やダンサーとして一流の表現者ですが、そもそも現代アートに対してどんな印象を持っていたのでしょう? 森山:それほど詳しいわけではなかったんですが、自分なりにアートには強い関心がありました。もう10年以上前になりますが、一番大きかったのはキュレーターの長谷川祐子さんとの出会い。そこでまず現代アートの扉がぐわっと開きました。 またパフォーミングアーツでは、ダンサーだけではなく音、光、衣装、美術など、様々な要素が相まって一つの総合芸術を形作っています。その点で影響を受けたのが、アーティストの名和晃平さんです。 ベルギーのコレオグラファー(振付家)であるダミアン・ジャレの『VESSEL』(2016)というプロジェクトに参加したとき、セノグラフィー(舞台美術)が名和さんだったんですが、一貫して素材にフォーカスされていて。スカルプチャーと身体の交感というコンセプトの元に「スカルプチャーとしての身体」を求められる。ダンサー的には拷問です(笑)。 ―名和さんにとって彫刻と身体は等価なんですね。 森山:僕の身体もセノグラフィーの一部という視点で扱われる。でもその透徹したイメージと、そこから生まれるエセテティクスに深く納得させられました。 そんな出会いもありながら、やっぱり僕が現代アートに惹かれるのは、僕らがいまの時代に対して感じる美しさや醜さ、あるいは疑問などに直接アプローチできる、独自の視点や強さを持っているからです。その意味で現代アートにはリスペクトと共感を抱いてきましたね。
次世代のキュレーターが新たなアートシーンを創出する「NEW ERA」
―アートフェスティバルの開催は3回目となりますが、今年の「NEW ERA」というテーマにはどういった意図が込められていたのでしょう? 加藤:フェスティバルに関しては、初年度3万人、去年4万人のお客さんが来てくださって、たくさんのアーティストにも参加していただけるようになりました。 僕らのフェスの型も出来はじめてきたし、そのうえで原点回帰じゃないですが、たくさんのお客さんにご来場いただくことや、会場やコンテンツが増えることはもちろん重要ではある一方で、やっぱり僕らのフェスティバルはこれからも新しい動きや新しい人たちをしっかりと紹介できる場でありたいな、と考えてテーマを決めたんです。 加藤:また重要だと思っているのは、アーティスト以外のプレイヤーの存在。僕らもはじめた当初はアーティストだけを意識していました。でもプロジェクトを進めていくなかで、すごく面白い事業者やキュレーター、ディレクターなどがたくさんいると気づきました。そういう人たち、特に未来の文化芸術を担う若い人たちと協業しながら一緒にフェスティバルをつくりあげることで、アートシーン全体を盛り上げたり、大きなうねりを起こしたりできるかもしれない。 それらを踏まえ、今回は、過去の『MYAF』でアドバイザー兼キュレーターを務めてくださった山峰潤也さんに、キュレーション監修をお願いいたしました。初回から本プロジェクトのエキシビションをキュレーターとして共創してきた山峰さんと今回も連携して、でも、今回は山峰さんが直接キュレーションするのではなく、NEW ERAを体現する座組の展覧会に落とし込んで行ったかたちです。 山峰潤也(以下、山峰):『MYAF』に初期から関わり、今回はエキシビション『SSS:Super Spectrum Specification』で3名のキュレーター(吉田山、呉宮百合香、堤拓也)を選出した立場からお話しさせてもらいます。 もともと僕は10年以上、ミュージアムで国際展に携わってきました。その期間は若手アーティストとの仕事よりも、日本の重要作家の個展や海外のアーティストと仕事が多かったです。ただ、今の時代にもっとコミットしようと思って、美術館を離れて六本木でANB Tokyo(※)を立ち上げたときに、自分の中でスイッチが切り変わったんです。しかもコロナ禍だったので、国際性が一気に絶たれていく時代を目の当たりにしました。 山峰:コロナ禍には人々の意識が家のなかへと向かい、多くの人がアートを買うようになって、新興のコレクターが増えてきた。前澤友作さんがバスキアを購入したことも大きかったですよね。にわかにアートという言葉が広がり、アートに関心を持つ他業界の方々が増えるなかで、内と外の境界に立つような仕事が見えてきました。アートという言葉についてバランスを取る、いわば矛と盾みたいな役割です。 ※ANB Tokyo……2020年に東京・六本木にオープンしたアートコンプレックスビル。スタジオやギャラリー、ラウンジをフロアごとに展開し、2022年に活動を終了した。一般財団法人東京アートアクセラレーション(代表:香田哲朗)が運営。 ―アートと世間の境界に立つガーディアンというか。 山峰:たとえば新興のマーケットが提示するアートのなかには、僕らのアート観では受け入れ難いものもあるわけです。発信力の大きい人たちの言う “アート”に触れるたび、業界の価値観が根底から崩れかねない危機感を抱いていました。だからANB Tokyoでは新しい資本層と向き合いながら、盾の役割として、アートの境界を守ることをかなり意識していましたね。 矛の部分は、彼らをはじめ世の中にアートの持つ多面的な力をより深く理解してもらえるよう伝えていくこと。『MYAF2022』でキュレーションを引き受けたのは、まさにこの2つの側面にアプローチできると考えたからです。 山峰:アートすらコモディティ化していく作用にさらされるなかで、僕が大事だと思うのはアートのコアの部分が立ち現れること。それは作品の持つ根源的なエネルギーだったり、社会に対する怒り、新たな表現を生み出す実験精神、あるいは未知へと向かうアーティストの魂だったりします。アートという文言を掲げて参入してくる人たちに、そんなメッセージを届ける決意をしました。 ちなみにキュレーションという仕事に関して、未來くんの話を引き継ぐと、もともと僕は学生時代にパフォーミングアーツをやっていて。 ―それは知りませんでした。 山峰:そのとき話題になっていたのは、演出家と演者の間の非対称的な関係性です。大抵の演出家や振付家は、役者やダンサーを一つの世界観に押し込めてしまいます。でも、ピナ・バウシュの演出は違いました。彼女は一人ひとりのダンサーと対話を重ね、当て書きみたいにコレオグラフィーをつくっていくわけです。 僕のキュレーションは、そんなピナの演出法に影響を受けています。キュレーターが書いた物語を演じるのではなく、アーティストたちそれぞれの人生がレゾナンス(共振、共鳴)しながらナラティブが生まれるような展覧会が理想です。 このプロジェクトにおいて、まず『MYAF2022』では、準備期間も少なく、経験豊富な方々から訝しがられるような状況で始まった僕の賭けでした。そんな中、アーティストの毛利悠子さんが背中を押すように最初に参加表明してくれたことが大きく、恵比寿ガーデンプレイスのホールで作品同士が呼応し合うようなエキシビションを作ることができました。天王洲に移った『MYAF2023』にはパフォーマンスという軸を追加して、展覧会場を未來くんが走り抜けていくような状況を設計しています。 そして今回の『MYAF2024』では、3人の若手を選出してキュレーションを一任しました。パフォーミングアーツを専門とする呉宮百合香さん、アジアの作家とのネットワークを持つ堤拓也さん、日本のオルタナティブな領域を持ち込める吉田山さん。 彼ら新世代のキュレーターを揃えたことで多様性も出たし、アートにおける新しい表現を探る試みにもなったと思います。まさに「NEW ERA」です。