「ミレー」ゼネラルマネージャーが語る、創業100年で“家族経営”へと回帰した理由
私たちは100年間にわたって、登山用品を手掛け、山へと人々を導いてきた
アウトドアに関連する企業に勤める人のほとんどがそうであるように、彼も絶えず登山活動について考えていることがうかがえる。 現在は、週末になると山岳地帯を駆け抜けるトレイルランニング、手つかずの雪山を登って滑走するスキーツーリング(バックカントリースキー)で過ごすことが自身にとってのFUN-TIMEであり、仕事のアイデアをもたらす源泉にもなっているようである。 加えて、一日が“あと3時間あるとしたら?”とたずねると「家族と過ごす時間にする」と答える。ふたりの子供はサッカーをすることが大好きで、一緒に映画を観る休日が何よりの喜びである。 ただし、彼らの家業である登山への興味を抱くにはいたっていない。ミレー一家の5代目として生を受けた子供たちふたりは、将来のミレーを担っていく存在なのだろうか。 「それはわかりません。スキーに行くのは好きだけど、彼らが登山に興味を抱くかはまだわかりません。ミレーの製品は使ってくれていますが、これからどのように成長していくか。まだ小さな子供たちですからね。今は見守っているところです」。
このインタビューの2日後、ロマンさんに世界随一の山岳リゾートとして知られるフランス・シャモニーで行われたイベント会場で再会すると、「次回は、北海道で会おう。スキー板を履いて、パウダースノーのなかでね」と言って肩を叩く。 そこに、同社の輝かしい歴史の基礎となる時代を形作ってきたミレー一家の人々が集っていた。会場では、備えられた壇上に立ってミレーの将来について語る。 「アウトドア業界では、今大きな地殻変動が起こっています。そのひとつが地球環境を脅かす気候変動であり、戦争やインフレなどによって消費者の消費動向も変化しています。 こうした変化に対応するために、私たちは家族経営で、長い期間にわたるモノ作りをしていくという選択をしました」。 ミレーが本拠地とするフランスでも、地球温暖化などの環境変化は深刻である。 シャモニー周辺では、気温上昇によってかつてないほど巨大な雪崩が起こり、数十人もの人々が犠牲になるという痛ましい事故が起こった。何百年と生きてきた巨木が倒れてしまったり、一帯の氷河後退も長年の懸案事項である。 これは登山用品を作り、たくさんの人々を山に連れ出してきたミレーにとっても深刻な状況である。温暖化で登山道が崩壊してしまえば登山ができなくなってしまうし、雪が降らなければスキーはできない。 ロマンさんは、こうした状況に柔軟に対応しながら、長期間にわたるビジョンを貫く。そうしたビジネスモデルを持続できるのが、現在のミレーが選んだ家族経営なのだと話してくれたのである。