なぜ日本では「障害者雇用」が進まないのか? 障害者と働くことで職場環境がより良くなる理由とは?
「障害者雇用率制度」というものがあり、日本では従業員が一定数以上の規模の企業に対し「法定雇用率」というものが定められています。これは全従業員の人数に対し、身体障害者、知的障害者、精神障害者の割合を法定雇用率以上にする義務のこと。 2024年12月時点での法定雇用率は2.5パーセントなので、従業員を40人以上雇用している企業は、障害者を1人以上雇用しなければならず、雇用義務を履行しない事業主に対しては、最終的に行政指導が行われます。 しかし、障害者雇用にあまり積極的ではない企業があるのが現実です。「障害者と働くなんてできない、難しい」と考えている事業主もいるようです。 どうしてそう考えてしまうのか。そこにあるのは障害者への無理解で、それを是正すべく企業に働きかけているのが、三菱HCキャピタル株式会社にて障害者雇用部門責任者を務め、現在はラグランジュサポート株式会社を設立し、障害者コンサルタントとして活躍する木下文彦(きのした・ふみひこ)さんです。 「法定雇用率」が定められたにもかかわらず、障害者の社会進出がなかなか進まないのはなぜなのか? さまざまな企業を見てきた木下さんにお話を伺います。
経営者が「障害者を雇用するメリットは?」と質問してしまう背景
――まずは「障害者雇用コンサルタント」の業務内容について教えてください。 木下さん(以下、敬称略):障害当事者が就労するのを支援する、とよく勘違いされてしまうのですが、私は障害者を雇用しようとする企業側にアプローチする立場です。短いと数カ月、長ければ1年ほど、企業に対して障害者雇用についての施策を提案し、ノウハウを提供しています。 最終的には私がいなくなっても、企業が問題なく障害者を雇用できるようにするのが仕事です。他にも障害者雇用のセミナーに登壇したり、それに関わる記事の執筆も行ったりしています。 ――「障害者雇用率制度」が定められたことで、企業が障害者を積極的に雇用しようとする動きが見られるようになりました。一方で、その数字をクリアすることしか考えていないような企業もあるのではないでしょうか。 木下:おっしゃるとおり、障害者を「数字」でしか見ていない企業も存在するのが実情です。法定雇用率が達成されていないと、不足する障害者数に応じて、一人当たり月額5万円の納付金を納めることになりますが、それを「罰金だ」と言う人もいますね。 でも、罰金ではないんです。納付金を納めても雇用義務は免除されません。そのままでいると、いずれ行政指導も入ってしまう。 だから、先のことを考えて、障害者を正しく雇用していく必要があるんです。そのためには、企業側の思考を変えてもらわなければいけないことも多々あります。 とはいえ、「障害者雇用率制度」が定められたことで、障害者雇用が拡大していったのも事実。なので、功罪はあるかもしれません。 今はまだ、障害者を雇用することに対して、社会や企業の理解が追いついていないという感じでしょうか……。 ――なかには「障害者を雇用するメリットがあるのか?」と聞いてくる人もいるそうですね。 木下:そうなんです。本当によく聞かれます。障害者を雇用するとなると合理的配慮(※)が必要になりますし、「面倒だから、そんなことを気にしなくていい健常者を雇いたい」というのが企業の本音なのでしょう。 ただ、それは「障害者を雇用するとどうなるのか」を経営者が想像できないということだと思うんです。経営者だって、子どもや親、妻がいれば、「若者が働くこと」や「シニア雇用」、「女性の社会進出」について想像できるかもしれない……。 ですが、障害者のことはよく知らないから、想像するのが難しい。だから、概念的にしか捉えられないし、デメリットばかりを探してしまうのだと思います。 一方で中小企業の経営者の中には、障害者雇用を真剣に考えている人も少なくありません。 これまでは主に大卒の男性で、転勤も残業も休日出勤も厭わない人だけを求め、そういう人たちを雇用できました。でも、いまは人も少なくなってきていますし、労働の規制も厳しくなってきているので、さまざまな人に目を向ける必要がある。女性もそうですし、シニア世代や、外国人もそうでしょう。 その中に、障害者もいる。そういうふうに考え、従業員の多様化を意識している人たちが少しずつ増えてきているように思います。 ※障害によって生まれる社会的なバリアを取り除いてほしいという意思の表明があった場合に、行政機関や事業者がそれを取り除くために必要かつ合理的な配慮を講ずることが、2024年4月から義務化された