なぜ日本では「障害者雇用」が進まないのか? 障害者と働くことで職場環境がより良くなる理由とは?
障害者雇用に積極的になることで、雇用の幅が広がっていく
――障害者雇用をうまく想像できない、まだ理解が足りていない人を前にしたとき、どのように説明しているのでしょうか。 木下:まずは「視点を変えてみませんか?」と問いかけています。企業には経営理念やビジョンというものがあります。例えば、「わが社は多様な人材の特性を活かし、イノベーションを生んでいく」とうたっているとしましょう。そうしたら、「その多様な人材の中に障害者が含まれてくるんですよ」と伝えるんです。すると、ビジョンの再確認にもなりますし、理解されやすい。 もう1つは、「業務の棚卸し」を促します。「いま、誰かにやってもらいたい業務はありませんか?」と尋ねると、いろいろ出てくるんです。その中から障害者にできることを見つけ出し、雇用の話へとつなげていく。 そもそも障害者といっても、個々で特性は異なりますよね。でも、障害者について知らない人たちからすると、どうしてもイメージが固定化されてしまいがちです。ですから、「障害者にできる業務なんてない」というふうになってしまうんです。 ですから、人手が足りていない業務や力を入れていきたい仕事内容をヒアリングして、業務の中で障害者にできることを見つけていくようにしています。 ――こうした雇用のステップを踏むことで、改めて社内の業務の整理にもなりますね。 木下:そうなんです。そうすることで、会社がうまく機能することにもつながります。 しかも、それが障害のない人にとってもプラスになることも多いんです。例えば、障害者を採用するため、短い時間でも働けるよう、有給を使って半日休めるような仕組みを導入したとします。すると、障害当事者はもちろんですが、育児や通院をしている人にとってもありがたい制度になり得ます。 障害者を雇用することは会社の仕組みを見直すことにつながり、働いている全ての従業員の働きやすさにもつながり、企業の寿命を延ばすことにもつながるんです。 ――今のお話は社会全体にも通ずることですよね。障害者向けにサービスが整えられていくと、結局は誰にとっても使いやすいものになっていくんですね。 木下:本当にそう思います。障害者のために仕組みを変えていくと、それが回り回って、全ての人の生きやすさになっていくんです。デメリットなんてないんですよ。 ――障害者雇用を実施した企業で、良い変化が起こった事例があれば教えてください。 木下:長野県茅野市に「株式会社みやま」という企業があります。金属の代わりに使われる、スーパーエンジニアリングプラスチックと呼ばれる素材の設計や開発をしているところです。 そこでは金型を成形する際、0.1ミリメートル単位での調整が求められるのですが、非常に細かい作業で、たいていの人は疲弊してしまうらしいんです。 ところが、細かい作業を集中して行うことが得意な発達障害傾向のある人を採用して、その業務を任せてみたら、生産性が向上したという事例がありました。それからは、他社が受注できないような難しい依頼も受けられるようになったため、価格競争にさらされることもなくなったそうです。 しかも、障害者雇用に積極的なことが広がったおかげで、障害の当事者ではない若者からの応募も増えたらしいです。そういう企業はきっと働きやすいはず、と思ってもらえるからでしょうね。結果的に人材面での苦労もなくなったそうです。