なぜ日本では「障害者雇用」が進まないのか? 障害者と働くことで職場環境がより良くなる理由とは?
障害者と健常者は明確に分けられるものではない
――株式会社みやまの事例から分かるのは、「その人の特性やできることを活かしていく」ということの大切さですね。 木下:はい。みやまに入社すると、最初にさまざまな部署を回り、どんな仕事が合うのかを見極めてもらうそうです。人を仕事に合わせようとするのではなく、合う仕事を任せるということが大事なんだと思います。 ――障害者の方のことを正しく理解し、個々の特性を活かせる環境を用意することが必要だと感じます。それ以外に、障害者の方が伸び伸びと働くために必要なことはありますか。 木下:「職場の心理的安全性(※)が高いこと」ですね。前職では障害当事者との面談を行っていたのですが、彼らの頭の中は不安だらけなんです。 「ミスをしたんじゃないか」「自分は変なことを言ってしまったんじゃないか」など常々考えていて、そうすると不安で不安で、仕事も手につかなくなってしまいます。 ですから、そういった不安を抱かなくていい環境を用意する必要があります。障害の当事者が迷うような抽象的な指示をなくし、マニュアルを作成し、全て明文化するなど、不安を生じさせる要素を限りなく減らしていくんです。 あとは、一緒に働く私たち一人一人が障害者の方にもっと関心を持つことも大事だと思います。「障害者は身近にいない」と思い込んでいる人が非常に多い。障害のある人の割合は2021年の調査で約7.6パーセントで、必ず近くにもいるはずなんです。見えていないだけ、もしくはその人が持つ障害者のイメージとは違うから気付いていないだけです。 考え方を変え、少しでもいいから障害者や障害に関して興味を持ってもらいたいと思います。 ※地位や経験にかかわらず、誰もが意見を言い合え、率直に疑問を聞き合える状態を「心理的安全性が高い」という。参考:「心理的安全性」とは何か? 石井遼介さんに分かりやすく教えてもらいました|NHK就活応援ニュースゼミ ――障害者の方に不安を抱かせているのは、彼らをいないものとしてつくられてきた社会や私たち一人一人の考え方に原因があるのではないか、と思いました。 木下:そうですね。だからこそ、ここからは関心を持って考えていくことが必要なんです。 「障害者雇用って難しいですよね」とよく言われますが、確かに難しいんですよ。 先ほどお話しした「不安を抱かなくてよい環境づくり」は、個々の事象は取るに足らないように思われるだろうけれども、それを一つ一つ潰していくことが難しいし、負担に思われるのではないかと感じます。 ただ、それをしていくことで、職場の不都合な真実が減っていき、最終的には誰もが働きやすい職場に変わっていきます。障害当事者だけではなく、他の人にも働きやすい環境が実現できる。 それは長期的に見れば良いこと尽くしなので、いまここで、みんなでアップデートしていきませんか、と思っています。
編集後記
多様性社会を目指す上で、企業が障害者雇用に積極的になるのは必須なことです。しかしながら、その雇用がなかなかうまく進んでいないのも実情。その原因はどこにあるのか。そもそも、障害者雇用をどう考えたらいいのか。それを知るために、木下さんにお話を伺いました。 大事なのは、障害者のことを正しく知ること、身近にいる存在として捉え直すこと。誰もがそんなスタンスで障害者の方を特別視することなく、同じ人間として付き合っていけるような社会の到来を願います。
日本財団ジャーナル編集部