〈解説〉月に「洞窟」を発見、なぜ重要で、実際にどう役に立つのか研究者に聞いてみた
月の表面はどれほど過酷なのか
シェルターの確保は最優先事項だ。「宇宙飛行士ががんにかかることなく長期滞在できる既存の居住環境が月面にあることが重要です」と、米国ミズーリ州にあるセントルイス・ワシントン大学の惑星科学者であるポール・バーン氏は話す。 さらに、太陽風ではシェルターは特に重要だ。地球上では強い磁場と厚い大気によって、太陽が噴き出す危険な太陽風から地表は守られている。しかし、磁場も大気もほぼない月では、太陽に面しているときは常に太陽の放射線が降り注ぐ。 防護策なしでは、宇宙飛行士は危険あるいは致死レベルの放射線量を浴びることになりかねない。「月面では、太陽風で人は文字通り死に至る恐れがあります」とグレッグ氏は説明する。「コンピューターにとっても太陽放射線は好ましくありません」 放射線は月の表面に吸収され、その後再放射されるため、長期的観点からも宇宙飛行士に悪影響を及ぼす恐れがある。「太陽の光を浴びていないときでも、月面にいるのはお勧めできません」とバーン氏は言う。 地下洞窟はそれ以外の脅威からも守ってくれる。月面では太陽光のあるなしで温度は急速に上下し、100℃単位で変化する。ありがたいことに「洞窟の内部では温度は一定に保たれている可能性が高い」とカレル氏は説明する。それも好都合だ。 トースターよりも小さなサイズの隕石は、地球にとっては脅威でも何でもない。地球の大気で燃えてしまうからだ。だが、月にはそうした大気の盾がない。「月の表面には微小な隕石が頻繁に降り注ぐため、結果的に、表に出ているもの全てにダメージを与えます」とグレッグ氏は言う。 溶岩洞はいずれ、宇宙飛行士やロボットが今後建設する月面基地を補う、頑丈な貯蔵空間として役立つはずだ。「地下に居住空間や貯蔵空間が既に存在するのであれば、月面での建設作業が大幅に減ります」とグレッグ氏は話している。
文=Robin George Andrews/訳=夏村貴子