〈解説〉月に「洞窟」を発見、なぜ重要で、実際にどう役に立つのか研究者に聞いてみた
アルテミス計画に朗報、未発見のものがまだ無数にあるという説も補強
アポロ計画以来の有人月面着陸が2020年代後半に予定されている。米航空宇宙局(NASA)のアルテミス計画だ。順調に進めば、水が豊富とされる月の南極域に、持続的な活動拠点が段階的につくられる。 ギャラリー:月の南極、探査機が着陸に成功 写真5点 2024年7月、この計画に朗報が届いた。月周回探査機のレーダー観測のデータを分析したところ、かつてアポロ11号が着陸した地点の近くにある縦穴(縦孔)と見られるものが、ただの穴ではなく、溶岩流によって形成されたかなりの長い洞窟(溶岩チューブ)につながっているという。これは人類にとって天然のシェルターがあると示唆する初めての証拠だ。論文は7月15日付けで学術誌「nature astronomy」に掲載された。 月に人類の活動拠点をつくるのは簡単ではない。太陽系の中でも、月の環境は極端で過酷だ。日向と日陰の寒暖差が激しい。時折強い地震(月震)も起きる。上空からはほぼ常に銀河や太陽から放射線が降り注ぐ。 「月面は人間にとっても機械にとっても過酷です」と、米ニューヨーク州立大学バッファロー校の惑星火山学者であるトレーシー・グレッグ氏は言う。月面に建設予定の人工構造物がシェルターとして機能するとはいえ、天然のシェルターがあるに越したことはない。 地球には溶岩チューブや洞窟がたくさんある。そうした場所は1万年近くの間、移動しながら暮らす人類にとって厳しい天候から身を守る場所となってきた。今回月面で発見された洞窟は、地球上にある洞窟と非常に似たものである可能性が高い。 しかも科学者によれば、洞窟はこの1つだけではないという。無数の洞窟が月のあちこちに存在すると考えられている。 火山の噴火でできたこういった洞窟の壁面は、地質学者が月の遠い過去を知る上で手がかりとなるだろう。また、貴重な水氷が含まれているかもしれない。水氷はロケット燃料として活用できる可能性がある。 「ですが、地下に張り巡らされた洞窟があるとすれば、最も重要なのは太陽放射線や小さな隕石など、月面にある脅威から身を守る場所になるかもしれないという点です」と、イタリア、トレント大学の研究者で今回の論文執筆者のレオナルド・カレル氏は言う。