ドラマを超えた戒厳令と大統領弾劾 傑作政治スリラー映画でたどる韓国現代史
「弁護人」民主化運動に身を投じた盧武鉉
民主化以後もさまざまな事件が起きるが、「ろうそくデモ」という国民的抵抗によって韓国大統領として初めて弾劾された朴槿恵(パク・クネ)元大統領が、「KCIA 南山の部長たち」のパク大統領のモデルの朴正熙元大統領の娘であることや、粛軍クーデター以後の公安統治下の代表的な思想弾圧である「釜林事件」で、学生たちの弁護を引き受けたことを契機に民主化運動に身を投じる弁護士時代の盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領を描いた「弁護人」までを思い浮かべれば、韓国の現代政治史をたどることができ、そして正当に選出されたわけではない軍出身の大統領たちのほとんどが、不幸な最期を迎えたことも分かる。
映画が招く妥協不可能な状況認識
ここに深刻な問題がある。善悪の対立構図で描かれる映画(しかも、韓国映画界はリベラル、あるいはさらに左寄りの政治的信念を持つ人がほとんどである)が、現実の大統領とその所属政党に対するイメージと重なり、「正義対不正義」という妥協不可能な状況認識を生んだことだ。正義への要求と同じぐらい政治や国民生活で重要なことは、対話と妥協という政治的スキルだ。しかし、相手を「悪」と規定してしまえば、互いの対話は「悪との妥協」になるため、全てが極端に走る国民分断の現実が到来するしかない。 そもそも尹錫悦を、当時の与党の反対を押し切って検事総長に任命したのは、「弁護人」のモデルの友人だった文在寅(ムン・ジェイン)前大統領だ(尹錫悦は学生時代、全斗煥元大統領の模擬裁判の裁判官として無期懲役の判決を下し、保安司令部に逮捕されるかもしれないという警告を受けて3カ月も逃亡したことがある)。回り回って状況がここまで混迷すると、「ソウルの春」に酷似しているという指摘も現れる始末で、尹錫悦大統領を全斗煥元大統領に代入するブラックコメディーまで作られている。フィクションが加味されていると明示している「ソウルの春」を見て歴史を学んだ気になる、笑えない堂々巡り。