ドラマを超えた戒厳令と大統領弾劾 傑作政治スリラー映画でたどる韓国現代史
「ソウルの春」全斗煥の粛軍クーデター
次の場所は同年12月12日、朝鮮時代の王宮の景福宮に駐屯していた第30警備団本部。軍内秘密組織「ハナ会」リーダー、チョン・ドゥグァン少将は、朴正熙暗殺後、大統領権限を代行していたチョン・サンホ陸軍参謀総長を抑えて権力を握る。いわゆる「粛軍クーデター」だ。作中、知略を発揮し、立志伝的出世を果たす人物として描写されているチョン・ドゥグァンは、大規模戦闘の代わりに激烈な頭脳戦で連戦連勝し、自分をけん制しようとした陸軍参謀総長と首都警備司令官を朴正熙殺害の共犯として逮捕する。全斗煥(チョン・ドゥファン)が大統領に就くまでの一連の事件を描いた「ソウルの春」のタイトルは、80年代に「新軍部」の登場で挫折した韓国国民の民主化への夢を象徴している。
「タクシー運転手 約束は海を越えて」「新軍部」利用した光州事件
次は翌年の80年5月、朝鮮半島の西南部、全羅南道の光州広域市だ。ソウルのタクシー運転手の主人公は、巨額の貸し切り料を受け取り、ドイツ人記者のピーターを乗せて光州事件の現場に向かう。そこで2人を待っていたのは、民主化を求める光州市民を自国の軍隊が虐殺する信じられない惨劇。優しくて明るかった地元の人々が次々と犠牲になっていく状況は、「新軍部」を利用した全斗煥大統領の鉄拳統治の現実を象徴している。ドイツ公共放送連盟(ARD)東京特派員のユルゲンㆍヒンツペーターの実話をモチーフにした映画「タクシー運転手 約束は海を越えて」だ。
「1987 ある闘いの真実」 民衆蜂起 民主化宣言の契機
舞台が87年1月のソウル龍山区、警察庁内務部治安本部対共捜査所に移ると、慌てた警察官たちと、すでに死亡しているソウル大学言語学科3年生の朴鍾哲(パクㆍジョンチョル)の姿が見える。学生運動家のパクが治安本部の取り調べ中、拷問により殺害されたこの事件が起爆剤となって国民的な抵抗が起こり、軍部が降伏を宣言する事態(民主化宣言)につながる。87年1月から6月29日までの過程を示した映画「1987、ある闘いの真実」で、「チェイサー」で知られる金允錫(キムㆍユンソク)は、暴圧的な国家権力を象徴する対共捜査所長を演じている。ここで特記すべきことは、朝鮮戦争当時の悲惨な体験から恨み同然の反共意識を持つようになった韓国保守派の思想的背景が、対共捜査所長の個人史に投影されていること。