アメリカ企業のCEOは、なぜ破格の年俸をもらっても周囲から妬まれないのか?
池上 さきほど、現世で成功したからといって、神に救済されるかどうかはわからないという話をしました。成功を収めて「神に選ばれた」と思っている人でも、このことには気づいているのではないか。論理学の必要条件と十分条件でいうと、十分条件はいつまでも満たせないから、自分が救われる確信は持てないわけです。だから不安になってきて、さらに頑張ることになる。 入山 なるほど。そうやっていつまでも頑張ってしまう。 池上 そして、晩年になると資産をほとんど寄付しますよね。それは『新約聖書』の「マタイによる福音書」にこのようなエピソードが書かれているからです。ある金持ちの青年が「永遠の命を得るには、どんな善いことをすればよいのでしょうか」とイエスに訊ねます。イエスが十戒を守りなさいと告げると、彼は「そういうことはみな守ってきました。まだ何か欠けているでしょうか」と再度訊ねる。すると、イエスはこう諭します。 『もし完全になりたいのなら、行って持ち物を売り払い、貧しい人々に施しなさい。そうすれば、天に富を積むことになる。それから、わたしに従いなさい。」青年はこの言葉を聞き、悲しみながら立ち去った。たくさんの財産を持っていたからである。イエスは弟子たちに言われた。「はっきり言っておく。金持ちが天の国に入るのは難しい。重ねて言うが、金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい。』 つまり、金持ちのままでは天国に行けないから、敬虔(けいけん)なキリスト教徒は死ぬまでに自分の財産を処分してしまおうと考えるのです。 入山 お金持ちになったのは神に祝福されているからだけれども、そのお金を持ったままでは天国に行けない。こういう理屈なんですね。 池上 そうです。ビル・ゲイツも、離婚前に奥さんと一緒に「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」という慈善基金団体を立ち上げています。以前、彼にインタビューしたときに、「金持ちが天国に行くのは難しいって聖書に書いてあるから寄付したんですか?」って聞いたら、笑って答えませんでしたが(笑)。
池上 彰/入山 章栄