アメリカ企業のCEOは、なぜ破格の年俸をもらっても周囲から妬まれないのか?
入山 私はアメリカに10年いたので、徹底した個人主義の国で契約社会であることは実感として理解していました。でも、理由はよくわかっていなかったんです。その背景にはカルヴァン派(プロテスタント)の宗教的規範があったのだと知ると、様々な体験がめちゃくちゃ腑に落ちるところがありますね。やっぱりアメリカというのは、びっくりするくらい宗教的な国なんだと思います。 そしてもう一つ、橋爪さんの本を読んでいて「確かにそうだな」と感じたのが、アメリカ人は「成功者は神に祝福されている」と考えるという点です。これは神学者である森本あんりさんの著書でも詳しく解説されていますが、何かの分野で成功した人は、カルヴァン派(プロテスタント)の「予定説」に基づき、「神に選ばれた人」として称賛されるんですね2 。 池上 一生懸命に働いて成功を収めた場合に、「神に祝福されたから成功したんだ。神に選ばれたんだ」と考える。厳密には、現世で成功したからといって、実際のところ神に救済されるかどうかはわからないんですけれども、彼らはそのように理解します。 入山 経営学の世界には、「アメリカ企業のCEOがもらっている給料は高すぎるんじゃないの?」っていうことを研究したり議論する人たちもいます。何十億円とか、ヘタをすると何百億円とか年俸をもらっている。でも、アメリカ国内では不思議なくらい批判や妬みが聞こえてきません。おそらく、「彼らは努力した結果、神に祝福されたんだから当然だ」って考え方なんでしょうね。 池上 日本だったら、「あいつだけ金持ちになった。ずるい! 許せない!」ってことにもなりそうですよね。ところがアメリカだと、「おめでとう! 自分も努力して成功したいね」ってなるんでしょう。 ■ 救済が保証されないから、さらに努力する 池上 メジャーリーグの選手も、何十億円と年俸をもらっています。私なんかは「10億でもすごいのに、どうして何十億も欲しがるの?」って思ってしまうんですけど、あれはきっと金額の問題だけじゃないんだろうなと。「これだけ神の祝福を受けている」という証なんじゃないですかね。だから、たとえ50億もらったとしても、「100億を目指そう」って、さらに上を目指すことになる。 入山 アメリカでは、研究者同士の競争も猛烈に激しいんです。ようやく博士号をとって大学のアシスタント・プロフェッサーとかになって一生懸命に頑張っても、多くの人は途中でクビになったりして浮かばれないんですね。ごく一部の勝ち残った学者たちが、ハーバード大学やMIT(マサチューセッツ工科大学)あたりの超一流校の教授になります。 でも興味深いことに、彼らはそこで満足しない。もっと頑張るんです。私なんかはもっと低いレベルでも「もう、いいじゃん」って思ってしまうんですけど(笑)。たぶん彼らは、「自分は神に選ばれた」と思って努力を続けているんじゃないでしょうか。 2『宗教国家アメリカのふしぎな論理』NHK出版新書(2017)