【市川紗椰の週末アートのトビラ】東京国立近代美術館「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」をご案内
今月の展覧会は…「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」
市川紗椰さんがアートを紹介する連載。今月は東京国立近代美術館で開催中の「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」を訪問しました。 市川紗椰がナビ!東京国立近代美術館「TRIO」展の注目作品(写真)
■“3つの都市の近代美術館が力を合わせ、一期一会の名品トリオ34組を結成!” トリオとは、3人組または3つの要素の集合体の意味。今回はタイトルどおり、すべての作品がトリオとして展示される、珍しいコンセプトの近現代アート展です。セーヌ川岸にあるパリ市立近代美術館、会場の東京国立近代美術館、2022年にオープンした大阪中之島美術館の3つの館のコレクションから、共通点のある作品を組み合わせた全34組のトリオが勢ぞろい。 座っている人物像のトリオ、パリ・東京・大阪の街を描いたトリオ、人物の彫刻のトリオ、楕円形の頭がモチーフのトリオ……それぞれテーマのもとに並ぶ3作品は、作家の国籍や年代も違えば、手法や素材も様々です。美術史の教科書では同じページに並ぶはずのない意外な3人組がいたり、有名な画家に挟まれて知らなかった画家がいたり、印象は3つともまったく違うのにディテールに同じものが描かれていたり、と、展示から受け取る情報量も、市川比では普段の3倍。鑑賞後の満腹感をたとえるなら、「いろんなおかずをちょっとずつ」の幕の内弁当ではなく「唐揚げ・エビフライ・カツカレーの3品盛り合わせ定食」の超ハイカロリーといったところでしょうか(笑)。作品の中から共通するものを探し出す面白さも、解説を読んで「なるほど!」とわかる知的な喜びもある。吸収すること、考えることがたっぷりあるので、1周するだけでお腹いっぱい。前・後期で展示替えをする作品も多いので、何度か足を運んでもいいかも! この展覧会が教えてくれるのは、自由で新鮮なアートの見方。各作品を所蔵館やウェブで見ることができても、トリオで並ぶ展示を通して浮かんでくる発見は、この場だけのもの。自分ならどんなトリオをつくろうかな?と想像を巡らしてみたりして、アートを選び、編集する“キュレーション”の妙も味わいました。 ■アートに詳しくても、詳しくなくても、発見がいっぱい。自由な視点からの楽しみ方を教えてくれる 20世紀に生まれたこのトリオの共通点は?左の2作品は、それぞれルソーとボッティチェリの名画に後世の画家が自分の表現を重ねているのがわかりやすい。その視点で見ると、右の作品にはルネサンスのフレスコ画の手法が使われていると発見できる。謎解きのような面白さ。 【写真】テーマ〈現実と非現実のあわい〉より(右から)有元利夫『室内楽』1980年 東京国立近代美術館、ルネ・マグリット『レディ・メイドの花束』1957年 大阪中之島美術館、ヴィクトル・ブローネル『ペレル通り2番地2の出会い』1946年 パリ市立近代美術館 ■トビラの奥で聞いてみた 展示室のトビラの奥で、教えてくれたのは…東京国立近代美術館研究員 横山由季子さん 市川: 今回、3作1組の「トリオ」の展示にこだわったのはどうしてですか? 横山: パリ・東京・大阪の3館のモダンアート・コレクションを一緒に展示しようというところから出発しました。通常はキュビスム、シュルレアリスム、抽象美術のように、美術史の流れで紹介することが多いのですが、今回はその“普通”を避けようと考えました。3館から1作品ずつ、「似ている」という点に注目して集めてみると、西洋が主流でほかが亜流、という形ではなく、日本の作家も海外の作家も、フラットに鑑賞してもらえるのではないかと考えたのです。 市川: トリオになる共通のテーマを考えて、作品を選ぶのも楽しそうですね。 横山: 私を含めた3館の担当キュレーター3人でオンラインミーティングを重ね、アイディアを出し合いました。それぞれのコレクションから出したい作品を提案、話し合い、必ず3人で合意をとりながら構成しました。 市川: よくぞこの3つがそろいましたね!と感心するトリオがいっぱいでした。 横山: 2つまではそろったけれど、3つ目が見つからなくて泣く泣く断念したトリオもありました(笑)。今回しか並ばない一期一会のトリオも多いと思います。美術史に詳しい人なら意外性を感じるし、アートをよく知らなくても、目で見て発見がある、そんな自由な視点で見てもらえる展覧会になればと思っています。 市川: 2つだと左右を比較するだけになるけれど、3つだと確かに視野がぐっと広がる感じがしますね。アートってこんなふうに見られるんだ!と新鮮でした。