なぜ共産党なのか?習近平氏の出した答えが「強い中国」 垂秀夫前駐中国大使が解説する「四つの視座」とは【中国の今を語る(1)】
中国の強権的な習近平体制は、突然誕生したわけではない。当然ながら共産党としての歩みがあり、故鄧小平氏がつくった集団指導体制からの連続性の中で出てきた。その連続性を理解しないといけない。中国問題も社会科学だ。さまざまな社会事象の中に法則性を見つけ出すアプローチが大切。私はそれを“視座”と呼んでいる。「変わる中国」と「変わらない中国」という側面がある。「問題提起」と「命題」は変わらない。だが、その「答え」は常に変わってくる。これが大事なポイントだ。(聞き手・共同通信中国総局長 芹田晋一郎) 【写真】北京市内に設置された監視カメラ「中国衰退論」摘発を示唆
▽「豊かになるから」と答えられず 第1の視座は、中国共産党の正当性の問題。中国はわれわれの体制とは明らかに違う。選挙がなく民主主義体制ではないので、なぜ共産党がこの広大な中国を統治しているのかについて、人民に答えなければいけない。 建国当初、毛沢東の時代は「なぜ中国共産党なのか」の答えは、旧日本軍と戦って建国した、立ち上がったからということだった。この正当性の問題についてそれほど大きな疑義を挟まれることはなかった。建国の英雄だったからだ。 ところがその毛沢東自身が、1950年代から大躍進や反右派闘争という失敗を犯し、1960年代になると文化大革命に入って、相当おかしくなり、1970年代になると通用しなくなってきた。文革が終わり、信用していた共産党を、もう信用できなくなってきた。その時に鄧小平氏が台頭した。鄧小平氏は共産党についてくれば「豊かになれる」という新たな答えを出した。つまり「なぜ共産党なのか」という命題は変わらないが「答え」が変わったということだ。
私の言う「鄧小平時代」は、鄧氏および彼に続く江沢民元国家主席、胡錦濤前国家主席時代も含めている。この時代は「豊かになる」という道を突っ走った。共産党の連続性があるので、習近平国家主席の時代になっても「なぜ共産党なのか」に答えなければならない。その命題は変わらないので。だが「豊かになるから」とは答えられなかった。胡錦濤時代の後半あたりから、高い経済成長が保てなくなってきていたからだ。 そこで習近平氏が出した答えは「強くなる」「強い中国」だった。これによって国民をひきつけようとした。あるいは「中華民族の復興」「中国の夢」とうたって、人民を鼓舞しようとした。これが、習近平氏の正当性。共産党の連続性の中にあって、ずっと変わらない命題があり、それぞれの時代背景に応じて、それぞれの指導者が答えを出してきた。 だから習近平氏にとって台湾問題も大切になる。中国建国は毛沢東のレガシー(政治的遺産)。香港返還は鄧小平氏のレガシー。習近平氏がレガシーを考えるときに、台湾問題であることは間違いない。ただ経済がここまで悪くなって、軍の腐敗汚職が極めて深刻な状況になっており、今は戦争をできる状況にはない。 ▽「党」が「人」に変わった