「とても孤独」なクジラのオスが、またしても大阪湾に迷い込んだ 温暖化や港の構造だけじゃない、その切ない理由
今年、大阪湾に再びクジラが迷い込んだ。全長は15メートル超で、重さ約32トン。太平洋の深い場所に多く生息するマッコウクジラの雄で、2月19日に堺市の港で死んでいるのが見つかった。 【写真】作業船から海中に沈められるマッコウクジラ 23年
大阪湾のクジラといえば、昨年1月に淀川河口付近に現れた「淀ちゃん」が記憶に新しい。太平洋に帰還してほしいという市民の願いもむなしく、数日後に衰弱死。和歌山県の沖合に沈められた。 なぜこうもたびたびクジラが現れるのか。専門家に原因を聞くと、地球温暖化に加えて、大阪湾周辺の港に特有の複雑構造が挙がる。さらに話を聞き進めると、不運な雄マッコウクジラの孤独な一生という、何とも切ないキーワードが浮かんできた。(共同通信=伊藤怜奈) ▽1カ月近い「滞在」の末に 今回のクジラが初めて目撃されたのは1月12日。神戸市の六甲アイランドに近い沿岸部だ。その後東に進み、1月23日からは堺市の堺泉北港に入った。1カ月近く「滞在」した末の2月19日、岸壁からおよそ300メートルの場所で死んでいるのが見つかった。人の目につきやすい河口付近で潮を吹き、市民にテレビカメラにと多くのギャラリーを集めた淀ちゃんと違って、堺泉北港は企業や工場が建ち並ぶ場所。発見の2日前には死んでいたとみられ、淀ちゃんのような愛称が付けられることもないままの「孤独死」だった。
クジラの体温はおよそ33度と人間に近い。気象庁によると、1月の大阪湾は平均海面水温が10~15度と冷たく、水深の浅い湾内に餌となる食料はない。脂肪の多いマッコウクジラは体内の脂を燃やして体温を維持するが、長い漂流の末に限界を迎えたとみられる。死骸処理に携わった関係者によると、発見時には既に皮膚の表面で腐敗が進んでいた。 大阪府と大阪市でつくる大阪港湾局によると、船から金属音を発して追い払う方法もある一方で、興奮したクジラが暴れる危険もある。担当者は頭を抱える。「太平洋に戻るよう願うくらいしか、できることはない」。せめて死骸を速やかに処分できるようにと事前に方法を検討し、堺市内の府有地に埋める形となった。 ▽脱出困難な「迷宮」 クジラが大阪湾に迷い込むのはなぜなのか。大阪市立自然史博物館友の会の鍋島靖信会長は、最も大きい理由として地球温暖化を挙げる。「大阪湾と太平洋との水温差が小さくなっている」というのだ。近年の暖冬で大阪湾の海水温が上昇。2つの海の「境目」が見にくくなった結果、湾内に迷い込む可能性が高まるという。最近ではクジラだけでなくイルカやウミガメも湾内で多く見つかっているそうだ。