「とても孤独」なクジラのオスが、またしても大阪湾に迷い込んだ 温暖化や港の構造だけじゃない、その切ない理由
▽不調を訴えようにも 屈強な肉体と精神で繁殖期を生き抜きながら、ひたすらに孤独を強いられる雄のマッコウクジラの一生。ここに「体の不調」という不運が重なると、今回のような「悲劇」が起こる可能性がさらに高まる。 昨年1月に見つかった淀ちゃんの年齢は推定46歳だった。クジラの平均寿命は人間とほぼ同じで、淀ちゃんというよりは「淀さん」という呼び名がふさわしい立派な中年だ。 そんな中年クジラには、目視でも分かるほどの傷があった。白い斑点のようなもので、鍋島さんはこう推測する。「深海で冷えた体を浅瀬で温めていたときに、船とぶつかったのではないか」。体の形も真っすぐではなく、常に「し」の字をしていた。 堺泉北港で死んだクジラは体組織の調査が進む。現時点で目立った傷や不調は判明していないが、三半規管や内臓が弱いなど、見えない部分の不調が見つかる可能性も十分ある。 こうした不調は、孤独な雄にとっては致命傷となり得る。集団で生活する雌は体調が悪くなっても、「おばあちゃん」や「お母さん」によるケアが期待できる。一方の雄はこうした「互助会」からは切り離され、1頭で孤独に暮らす。傷ができたり、体調不良になったりしても誰も守ってくれない。
自然環境の変化、港湾の構造に孤独な習性…。袋小路から抜けられないまま一生を閉じた堺泉北港のクジラは、2月26日に無事埋設された。埋められてから1~2年後に掘り返され、大阪市立自然史博物館に骨格標本として提供される見込みだ。自然史博物館には既にマッコウクジラの雌の標本があり、これでどちらもそろうことになる。博物館の主任学芸員は喜びを語る。「雄と雌では体格がかなり違う。とても貴重な資料になる」 昨年1月の「淀さん」は船で運ばれ、和歌山県沖に沈められた。その処理費用は8000万円と高額だったのに対し、今回採用された埋設は概算で1500万円。安価で済むというメリットもある。 大阪府の吉村洋文知事は、「淀さん」が生きていればほぼ同い年となる48歳。2月19日、堺泉北港のクジラが死んだとの知らせを受けて、記者団に沈痛な面持ちを見せた上でこう語った。「非常に残念だ。自然の世界で起きたこととして受け止めようと思う。埋設という方法を取ることで、意義がある標本を提供したい」