「とても孤独」なクジラのオスが、またしても大阪湾に迷い込んだ 温暖化や港の構造だけじゃない、その切ない理由
気候に加えて、大阪湾の構造も原因だと鍋島さんは分析する。湾の中でも、神戸市周辺の港が単純な構造であるのに比べて、工業地帯が広がる大阪市や堺市周辺の沿岸は、船が貨物の積み降ろしで接岸できる場所を増やすため、多くはかぎ形のように入り組んでいる。今回死骸が見つかった堺泉北港は袋小路の構造だ。クジラは音波を発し、その反響によって自分の位置や進路を認識する。障害物が多く、入り組んだ大阪湾はいわば「迷宮」で、一度入ったら脱出するのは至難の業なのだ。 ▽世界の海を漂う「ぼっち」クジラ 昨年の淀ちゃんも、今年のクジラも、大阪湾で息絶えたのはいずれも雄のマッコウクジラだった。鍋島さんに聞くと偶然ではないらしく、意外な答えが返ってきた。「クジラの雄はとても孤独なんです」 マッコウクジラの雌は団体行動を取るのが一般的だが、雄は「個」の行動が中心。生まれたのが雄だった場合、体が大きくなる10~15歳ごろには雌の集団から文字通り追い出されてしまうという。
理由は明確で、雌が生きるためだ。成長した雄は水深2~3キロ付近でダイオウイカなどを捕獲するが、雌は潜れてせいぜい数百メートル。雄と雌が同じ生活圏にいると、雌が食べる餌も全て雄が食べ尽くしてしまう可能性がある。 その後、雄たちは3~4頭のグループで行動するようになる。ところが、そうした関係が続くのは、繁殖期という名の壮絶な「争奪戦」が始まるまでの間だけ。繁殖期に入ると雌を奪い合い、繁殖能力が低い雄は戦いに敗れて退散。グループはバラバラになる。こうして「ぼっち」になった雄には、風来坊として世界中の海を漂いながら地道に繁殖活動を続けるという運命が待ち受ける。 クジラの寿命はおよそ80歳で、人間とそう変わらない。鍋島さんによると、堺泉北港のクジラは「20~30歳くらいの若者」で、体の大きさから繁殖能力が備わっていたとみられる。雌の集団から追い出された後、繁殖活動中に「見知らぬ海」に迷い込んでしまったのだろうか。