進化心理学が明らかにする「人類が現代社会で幸せになれない理由」…どうして私たちは過剰に”砂糖”を摂取してしまうのか
機能的特性と「適応」
進化心理学とは、進化理論を駆使しながら人間の心理を理解しようとする試みだ。進化がどのように、そしてどの程度、人間の考え方、感じ方、知覚と行動のしかたに影響してきたのかを知ろうとする。過去を知ることで、今日を学ぶ。 その際、どのような環境条件で進化が起こったのかを知ることがとても重要になる。人間がヘビやクモを気味悪がるのも、サバンナの風景に似ている都市を公園で飾るのも、キャンプファイアを好むのも、他人について何時間もおしゃべりできるのも、音が突然鳴ると驚くのも、狙って何かを投げることができるのも、長距離を走れるのも、どれも偶然だとは考えられない。 私たちの視覚は、電磁スペクトルの一部、つまり生物として見えたほうが有益な部分(すなわち「光」)にのみ反応する。同じことが、人間心理のほかの特性にも当てはまると考えられる。人間の心は今もなお、祖先たちにとって有利だったパターンに倣っている。有利な状況をつくるために特定のパターンを習得することは「適応」と呼ばれる。 人間の能力のすべてが進化を通じて獲得されてきたわけではないが、複雑な機能的特性は、適応を通じて獲得された可能性が極めて高い。あるいは、少なくとも過去の適応の名残だ。 興味深いことに、進化心理学を用いることで、人の思考と行動の誤作動の多くを説明できる。
砂糖の過剰摂取は進化の過程が影響していた?
心を環境にうまく合わせられない最たる例として、砂糖に対するほぼ底なしの欲求を挙げることができる。炭水化物は人体にとって重要なエネルギー源でありながら、かつてほとんどの時代で不足していた。そのため、砂糖を摂取するチャンスを絶対に逃さないという性質を進化させることは、理にかなっていた。 炭水化物の不足が続く限り、この性質は有益だ。砂糖に対する欲求があるおかげで、私たちは重要なエネルギー源を活用できる。しかし、そのような適応環境を離れ、スーパーマーケットやコンビニエンスストアで際限なく糖分を調達できるようになった瞬間、この欲求が問題に変わった。飢えの時期に備えてできるだけ多くのエネルギーを摂取しておくという進化特性を、意図的に制限しなければならなくなった。 残念ながら、人間の心理には先祖代々受け継いできた性質が大量に備わっている。そのような性質にとって、現代社会はますます相性の悪い環境になりつつあるため、私たちははるか昔に獲得した本能、考え方、行動などを、多大な犠牲を払って抑圧しなければならない。 自制する必要が増し、「文化に対する不快感」が広がる。なぜなら、文化が物質的な困窮をなくす代わりに、人に認知的な規律に満ちた生き方を強いるからだ。その結果、相反する認識が併存しつづけることになる。発展を遂げた人間社会における物質的な繁栄は、一見したところ幸福の訪れを約束しているように見えるが、幸福はなかなか訪れず、訪れたとしても不完全でしかない。なぜなら、社会の複雑さが増すたびに、認知的な負担が増えるからだ。 『なぜ人類だけが特異的な「協調性」を手に入れられたのか…決定的な出来事は「自然環境の変化」だった』へ続く
ハンノ・ザウアー、長谷川 圭
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