1日20時間働き、原価100%の商品もあった…愛知の小さなパン屋が5年で「日本一売れるパン屋」になるまで
■最後のM&Aで赤字企業の再建に挑む 田島氏は譲受後、まずその会社を理解することから始めると言う。その会社のやり方や仕組みを学び、そこに自分たちのノウハウや方針を合わせ、グループ一体となって進んでいく方針だ。オールハーツ・カンパニーの時代にはM&Aが成長のエンジンとなり、合計7社のM&Aを実現した。なかでも、最後に実行した「なめらかプリン」で有名なパステルのM&Aは印象深いと言う。 「元々、パステルの経営者の方と顔見知りで、『うちを何とかしてくれないか』とのお声がけをいただいていました。しかしその当時、パステルは大きな赤字を抱えていました。半年ほど熟慮を重ねて自分の力では再建は難しいとお断りしたのですが、どこか頭の片隅に残り続け、いったんお断りしながらも何かできることはないかと考え続けていました。 パステルのプリンはいつ食べてもおいしく、品質も安定しています。この強みを活かせる方法があるのではないかと考えました。徐々にビジネスの再構築に対するアイデアが固まり、最終的にM&Aを行う決断をしました」 黒字の企業を譲り受けて、その企業のノウハウを学び、自らの経営の幅さえも拡げていくことが田島氏流のM&Aであったため、赤字の企業を譲り受けて再生を手掛けることは初めての挑戦となる。そして、これまでに培ったノウハウのすべてを活かす機会でもあった。 ■見事、1年で8000万円の黒字化を達成 当時、パステルは2億5000万円程の赤字を抱えていたが、翌年度には見事8000万円の利益を出して回復させ、経営の立て直しに成功する。これまでに田島氏が学んできた経営が実を結んだ瞬間だった。 「数年間、会社全体のP/Lが悪化すると、社員の給与や賞与に影響が出るため、初年度から黒字にできる見通しがない限り、譲り受けはしないと決めていました」 再建の糸口を見つけられたのも、数あるM&Aの経験によるものだ。20代を職人としての技術を磨くことに捧げ、30代はM&Aを戦略として経営の学びに捧げた。工場のSKUの最適化や、賞味期限の設定をどれくらいにすることでロス率が変わるのかなど、細かな単位で改善を積み重ねた集大成だ。