1日20時間働き、原価100%の商品もあった…愛知の小さなパン屋が5年で「日本一売れるパン屋」になるまで
■譲渡企業をリスペクトするM&A 田島氏は、経営改革に取り組んでいた時期に、資金的にも新規出店が難しい状況が重なったことが、逆に既存店と向き合い改善する機会になったと振り返る。経営者としての未熟さを痛感したとも言う。そこで行ったのがM&Aによる譲受だった。 「経営について勉強不足だと思い、自分たちよりも利益率が良い会社を譲り受けさせていただいて、経営を学ぶことを視野に入れ、M&Aを行うことにしたのです」 これは田島氏の特徴であろう。企業を譲り受ける側は、通常は自社のやり方を譲渡企業に装着することをイメージする。しかし、田島氏は逆だ。譲渡企業の良いところを自社が学ばせてほしいという思いから譲り受けている。そこには確かな譲渡企業へのリスペクトがある。 ここから数々のM&Aを実行して大きくなっていくオールハーツ・カンパニーだが、同時にM&Aは田島氏にとって様々な企業の良い部分を内側から体験できる絶好の学びと実践の場でもあった。 ■ラスク、ケーキ、高級路線から学んだこと 最初にM&Aで譲り受けたのは、元々OEM製造を委託していたラスクの製造会社だった。社長とは顔見知りで、高齢で後継者がいないことを知っていたため、田島氏はM&Aの提案を切り出した。それまでの信頼関係もあり、「田島くんならいいよ」との言葉を貰い、初めてのM&Aが決まった。この会社からは、工場の生産管理の仕方や利益管理を学んだという。 その後、ケーキ店のピネードを譲り受けた。ベーカリーではなくスイーツ事業における経営や利益の出し方を学ぶことになる。さらに、京都に拠点を置く高級路線のベーカリーGRANDIRを譲り受け、今度はブランドづくりや高級店の運営を学んだ。単に売上・利益を拡大させるだけでなく、M&Aを通じてそれぞれの仕組みを学び、田島氏自身の経営の幅を広げていったのだ。 「私は常に商品の品質と価値を向上させることを心がけています。高校生の頃から、数千から数万の店舗を見てきましたし、どんなお店にもリスペクトを持っています。たとえ売れないと言われる店でもです。そこから学ぶことも多く、新たな発見があるものです。だから、M&Aを行う際には常に自分には持っていない発想を学ぶ機会がないかというのを判断基準の1つにしています」