1日20時間働き、原価100%の商品もあった…愛知の小さなパン屋が5年で「日本一売れるパン屋」になるまで
■ヒット商品の人気が続かず、倒産危機 その後、「マジカルチョコリング」に続いて「とろなまドーナツ」など次々とヒット商品を世に出していく。こうしたヒット商品を生み出す秘訣についても聞いてみた。 「1つは掛け合わせです。流行のもの同士を組み合わせる。その当時は、花畑牧場の生キャラメルとクリスピー・クリーム・ドーナツが流行っていて、その2つを掛け合わせたのが『とろなまドーナツ』でした。それでも私のヒット率は2~3割しかないと思います」 右肩上がりの成長から一転、30代前半を迎える頃には42億円あった売上が、翌年には30億円にまで落ち込むという大事件が起こった。爆発的にヒットした「とろなまドーナツ」の人気が想定より長く続かなかったのだ。 30億円の売上に対して、42億円の企業を運営するための経費が発生している。赤字は必至だ。新商品のための設備投資や工場の増設が重なり、会社は途端に窮地に陥った。倒産するかもしれない危機感が田島氏の胸中を訪れる。 田島氏は後悔した。 「自分が経営やビジネスについて全く理解していなかったことに気づきました。それまでは良いものをつくって売ることしか考えていませんでした。どのようにして利益を増やしていくかについて全く考えていなかったとも言えます。開発とビジネスが噛み合っていなかったんです。年商10億円規模ならそのままの方法でもよかったのかもしれませんが、それ以上になると経営の考えや利益への意識改革が必要だと感じました」 ■「貢献」という稲盛和夫氏の経営哲学 田島氏は経営書を読み漁った。もともと職人気質だった田島氏には研究者肌な側面がある。数十億円の売上をつくる経営者と、数千億円をつくる経営者の著書を読み比べて、違いたらしめているのは何なのか徹底的に考えた。特に稲盛和夫氏の経営哲学に共感した。 大企業を目指すならば、地域社会や世の中、ひいて国に貢献する視点を持たなければならない。そして、売上を最大化しながら経費を最小化する経営を徹底することも決意した。ピンチを背にして田島氏の経営観や視野が高まった瞬間だった。 「既存店舗をすべて回り、掃除からパンづくりまで各店舗のスタッフと一緒に行いました。そうすることで課題が見えてきました」 どのようにして利益を生み出すか社員たちと徹底的に話し合い、努力を重ねた結果、窮地からわずか1年で利益が出る会社へと返り咲いた。